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サステナブル・シーフードを知り、未来を考える。気鋭のシェフと魚突き漁の漁師が対談

飲食店のサステナビリティ向上を目的とした取り組みを展開するSRAジャパンは、9月1日に「未来のレシピコンテスト」の公募をスタート。それに先立ち、5回にわたり「サステナブル・シーフードセミナー」を実施。本記事では、第1回セミナーの様子をお届けする。

<目次>
1.サステナブル・シーフードをテーマに次世代の若手シェフを発掘
2.複雑なフードシステムが生産者と消費者の距離を拡大
3.一匹ずつ捕らえる魚突き漁は乱獲や混獲をなくす究極の漁法
4.命を大切に思う心こそサステナビリティの根源

 

サステナブル・シーフードをテーマに
次世代の若手シェフを発掘

「一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRAジャパン)」は、CSR・サステナビリティの分野で欧州と日本の橋渡しに努めてきた下田屋 毅さんが、2018年に設立した協会。母体となるのは、2010年にイギリスで設立された「サステイナブル・レストラン協会」だ。

当協会は設立以降、飲食店のサステナビリティ向上を目的とした取り組みを展開。代表的な取り組みとして挙げられるのは、サステナビリティの最前線にいるレストランなどを表彰する「FOOD MADE GOOD アワード」だ。

「一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会(SRAジャパン)」の代表・下田屋 毅さん

「サステナブル・シーフードセミナー」の冒頭、下田屋さんは、サステイナブル・レストラン協会の本部との連携のもと、SRAジャパンが提唱する「FOOD MADE GOODスタンダード」について、次のように説明した。

「『FOOD MADE GOODスタンダード』は、調達、社会、環境を大きな柱とした世界的な基準です。具体的には、『アニマルウェルフェアに配慮した肉や乳製品を使用する(調達)』『従業員が幸せに働ける環境をつくる(社会)』『食品ロスを削減する(環境)』などの10項目にわたる取り組み、基準における重要項目としています」。

また、SRAジャパンの加盟店になると、レーティングツール「FOOD MADE GOODスタンダード」が利用できるようになり、本ツールで用意されている質問に回答することで、サステナビリティの分野における自社の強みと弱みを確認できるという。

国内のレストランや企業からの回答をまとめると、サステナブル・シーフードに関する取り組みが不十分なケースが多いことが分かります。なお、この背景には、サステナブル・シーフードへの認識不足や、導入しづらい環境があると考えられます。この状況を、将来の飲食業界を担っていく30歳以下の若手シェフや調理師専門学校の生徒に少しでも理解していただきたい。そしてそれを、今後の課題を解決するきっかけとしたい、との思いから、今年の『未来のレシピコンテスト』のテーマを『サステナブル・シーフード』にしました」。

複雑なフードシステムが
生産者と消費者の距離を拡大

2024年6月14日、東京都小金井市にある「辻調理師専門学校 東京」にて第1回目となる「サステナブル・シーフードセミナー」が開催された。登壇したのは、東京・表参道にあるフレンチレストラン「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ・ 生江史伸さんと、島根県・海士町にて魚突き漁に取り組む吉川岳さんだ。

レフェルヴェソンスは「健全な社会や生態系に貢献する、環境再生型のリジェネラティブ レストランになる」というビジョンを掲げ、レストランの運営をとおして生物多様性の保護などに取り組んできた。

また、2023年12月には、レフェルヴェソンスが環境や社会に与えた影響などを明示する「インパクトレポート」も公表。もちろんサステナブル・シーフードにも、独自の信念のもと、強い関心を注いできた。

「レフェルヴェソンス」のエグゼクティブシェフ・ 生江史伸さん

セミナーに登壇した生江さんは、開口一番、サステナブル・シーフードについて次のように見解を語った。

「僕らが暮らしている日本は、四方を海に囲まれている国。誰もが海から近い場所に住んでいるといえますが、複雑なフードシステムが確立されている現代社会では、自分達が口にしている魚介類がどこで、誰が獲ったものかをなかなか知ることができません。フードシステムが確立されているからこそ、食材が安定的に供給されるわけですが、サステナビリティの観点で考えると、生産者の存在がみえないのは望ましくないこと。目の前にある魚介類は、生産者なくしては口にできないものと認識し、生産者との関係性を構築しなおすことが、漁業や海におけるサステナビリティを実現する第一歩になると考えています」。 

一匹ずつ捕らえる魚突き漁は
乱獲や混獲をなくす究極の漁法

島根県海士町で魚突き漁を営む吉川岳さん。手にしているのは、潜水時に使うフィン。

吉川岳さんが取り組んでいる魚突き漁とは、ウエットスーツとフィンのみを身につけて一息で海に潜り、魚を獲る漁法。魚を捕獲するために使う道具は、ゴムの力を使って矢を発射する「水中銃」だ。

魚突き漁のノウハウを、吉川さんはこう説明する。「水深10〜25mの場所に潜り、魚が射程範囲内にくるのを待ちます。射程範囲内に魚がやってきたら、いよいよ水中銃で魚を仕留めるわけですが、この際は必ず、魚の胴体ではなく頭部を狙います。胴体を突いてしまうと可食部が減り、商品価値が落ちてしまうからです。また、魚を仕留めることに成功したら、海中ですぐに仕留めた魚の脳を破壊します。これにより、魚の体からエネルギーが失われず、活きのいい状態を保つことができます」。

漁網を使って魚を捕らえた場合、かかった魚は逃れようとして網のなかで強く暴れる。暴れるうちに魚の体内に乳酸が溜まり、それが魚の食味が落ちる原因の一つになるそう。しかし、泳いでいる魚を一発で仕留める魚突き漁であれば、魚の本来の味わいを保つことが可能になるという。

また、吉川さんいわく魚突き漁は、サステナブルな漁法だ。「海中で魚を選別できるので、市場で価値がつかない魚やサイズが小さい魚を傷つけたり捕らえたりすることがありません。また、捕らえる時は一気に命を奪うので、魚にストレスや苦しみをほとんど与えずに済みます」。

必要な分だけ捕獲できる魚突き漁は、乱獲や混獲をなくす究極の漁法だ。しかし、魚突き漁や魚突き漁を営む漁師を取り巻く状況は、易しいものではない。
こう、吉川さんは説明する。

国内で魚突き漁に取り組んでいる漁師は、全体の1%もいません。また、頭部に穴が空いた魚は、低く評価される場合もあります。日々、50kg以上もの魚を獲らなくては、収益を確保できない状況に置かれている漁師もいます」。

命を大切に思う心こそ
サステナビリティの根源

「魚突き漁で獲られた魚は、いわば漁師が命をかけて獲ったものです。こうした魚は僕ら料理人には、いっそう大事に感じられます」と、生江さん。

そしてサステナビリティに関して、次のように考えを述べた。「サステナビリティについて語り始めると、話が難しい内容に発展しがちです。しかしサステナビリティの根源は、すごくシンプルなもの。自分や周囲の人々をはじめ、あらゆる人や生き物の命を大切にする心が、サステナビリティの根源になると思います」。

「未来のレシピコンテスト」の公募期間は、2024年9月1日〜9月30日。また、次回の「サステナブル・シーフードセミナー」の詳細は、「未来のレシピコンテスト」のホームページにて公開される。

問い合わせ

「未来のレシピコンテスト」詳細はコチラ

【主催】
一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会
食のアカデミー賞と称される「世界のベストレストラン50」でサステナブル・レストラン賞の評価も行う英国本部と連携し、格付けやキャンペーンを実施。サプライヤーやレストラン、消費者コミュニティの構築を通して、フードシステムの課題解決に取り組み、食の持続可能性を推進している。

所在地:〒150-0022 東京都渋谷区恵比寿南3丁目4−16 アイトリアノン301
代表者:下田屋 毅
公式サイト:https://foodmadegood.jp/


取材・文/緒方よし子

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