注目キーワード

スマート漁業

水産流通の革命的アプリ!「UUUO」「atohama」のデジタルインフラで市場の仕事をスマートに

魚の買い手がつかない、売場の鮮魚が変わり映えしない、働く時間が長い……。それら水産業者や販売店の声を汲み取り、独自のサービスの展開で解決しようと取り組んでいるのが株式会社ウーオ。「水産のデジタルインフラ」を標榜するウーオが何を変えようとしているのか、詳しく話を聞いてみた。

<目次>
1.単なる中間業者ではない。水産にとって大事な「市場」
2.アプリ「UUUO」で売り場の魚種が増えた。遠方からの仕入れも可能に!
3.労働環境を劇的に改善するatohamaの働き方改革
4.目指すは完全なデジタルインフラ化。パナソニックとの連携も加速中!

 

単なる中間業者ではない。
水産にとって大事な「市場」

鮮魚の安定供給のためには「市場」の存在が欠かせない。

水産物を扱う産地直送のECサイトやアプリのサービスによって、漁師等の生産者が直接消費者へ販売することが一般的になりつつある。その反面、見過ごされがちなのが従来の市場の役割だ。

荷受業者は鮮魚の集荷や価格の形成、代金の回収保証などを、仲卸業者は鮮魚の選別や用途別の仕分け、クレーム対応などを担い、責任やリスクを引き受けながら地域に魚を流通させている。消費者からは見えにくいが、こうした中間業者が活躍しているからこそ私たちはスーパーや飲食店で海の恵みを安定的に享受できるのである。

ただ、業務が多岐にわたるだけに、市場の仕事はハード。早朝・深夜の重労働や不定期な休日、勤務時間が終わっても密に連絡を取り合うなど、しんどい環境で働くことを余儀なくされていた。

また、日本の近海で獲れる魚が減少しており、市場外流通の鮮魚も増加。需要の高い魚種を重視する傾向もある。つまり、市場で取り扱う鮮魚の数も種類も減っている。これが巡りめぐって、販売店の魚の顔ぶれが変わらない、欲しい魚が手に入りにくいといった影響を及ぼしている。

こうした水産業界の労働環境と複雑な流通構造の課題解決を目指すのが、広島に拠点を置く株式会社ウーオである。

アプリ「UUUO」で売り場の魚種が増えた
遠方からの仕入れも可能に!

ウーオは代表取締役の板倉一智さんが2016年に創業した企業。デジタル技術で日本の水産流通に変革をもたらし、漁業流通において非常に注目されている。

ウーオ代表の板倉さん自らプレーヤーとなり、市場の課題を見つけ出す。

板倉さんは祖父が鳥取県の網代港でカニ漁に従事していたこともあり、水産業が衰退していく時代に、産地のためになるサービスを開発しようと起業。鳥取県の賀露港と網代港で買参権(水揚げされた鮮魚の競りに参加できる権利)を取得し仲買のプレーヤーとして大阪・名古屋・豊洲へ鮮魚を出荷しながら、そこで得た知見をデジタルサービスの開発・提供に生かす。
大きな柱となっているサービスのひとつが、BtoBマーケットプレイスの「UUUO」(ウーオ)だ。

UUUOの取引画面。鮮魚の写真は必ず掲載され、水揚げ日、締め方、漁法、サイズなども示される

全国の産地の仲買や市場の荷受業者が出品し、仲卸、スーパー、飲食店などが買い付けを行うマッチングプラットフォームで、「魚のマッチングアプリ」と言われることも。

毎日、新鮮な魚の写真とともに送料・手数料込みの価格が明示されて出品、すぐに購入できる。それとは逆にほしい魚のリクエストも可能。売り手にとっては高く買ってくれる業者を見つけられ、買い手にとってはよりニーズに即した水産物を入手できる機会を提供する。

そこで肝心なのが、情報開示と信頼性だ。 出品時には単なる価格情報だけでなく、鮮魚の状態がわかる写真、水揚げ日、締め方、漁法、サイズといった魚の品質を判断するために必要な情報を詳細に登録することを必須としている。

これにより、買い手は実物を見なくても購入の判断ができる。刺身向き・加熱向きなどの出品者による鮮度評価や、購入者による相互レビュー機能によって、取引の信頼性も担保される。

株式会社ウーオ 取締役CPO 土谷太皓さん

同社CPOの土谷太皓さんによれば、「昔に比べれば、市場に魚が集まりにくくなっています。そんな中、例えば主に広島の市場から調達するスーパーでは、なかなか変わり映えのしない魚種でお客さんもマンネリを感じていたところに、UUUOを使ってバイヤーが珍しい魚を仕入れて売り場を変化させた例がありました。また全国の魚を遠隔地から調達できるので、鳥取の業者が千葉のスーパーへ魚を販売するといったことも可能です」と、産地と消費地の垣根を超えた取引も実現している。

2024年には、豊洲市場と大阪市中央卸売市場を経由して最寄りの市場や店舗に届ける独自の配送網を構築。直送するよりも配送期間や送料を抑える仕組みを作り、地方からの仕入れのハードルを下げている。

現在の利用者は、出品でのべ200社、購入は1,000社に及び、購入者は飲食店が最も増加しているという。ある広島の飲食店では「タイ、アジ、サバなどのいわゆる大衆魚と呼ばれている魚や、瀬戸内海で漁獲される魚以外は、広島では入荷が少ない日も多い。そこでUUUOを利用することで他地域から仕入れてラインナップを増やし、季節のメニューづくりに役立てているようです」と、新たな仕入れ方法として活用されている。

売り手にとっては、新規の顧客の開拓にもなる。さらに、既に買い付けた魚を売る通常の出品に加え、これから競りにかけられる魚を予約販売する「セリ前出品」により、出品者は事前に需要を把握して在庫リスクを減らし、販路を拡大できる。これまでは見えなかった顧客の姿が可視化されたのである。

労働環境を劇的に改善する
atohamaの働き方改革

UUUOはBtoBプラットフォーム、atohamaは業務効率化アプリと、役割が違う。

もうひとつの柱になるサービスが「atohama」(アトハマ)。広範な売買プラットフォームアプリのUUUOに対して、こちらは市場内の荷受業者と仲卸との間の受発注業務をデジタル化し、業務効率化を図るSaaSプロダクトだ。

一般的な水産物流の流れ。

一般的な魚の流通は、漁協や漁師から荷受、仲卸、そして小売店・飲食店へと流れる構造を持つ。産地から遠方の消費地に魚を届ける際、通常は多くの仲介業者が関わり、電話やFAX、手書きのメモといったアナログな手段で受発注や情報共有が行われていた。

このアナログなやり取りは、情報伝達の遅延や転記ミス、そしてなにより、業者らの長時間労働を招いていた。これをサポートするのがatohamaである。

atohamaは荷受と仲卸の間でやりとりされるが、UUUOとの連携も可能。

水産に特化した機能で入荷案内や荷割の指示が簡単に行え、受注情報をすぐに社内で共有・確認が可能

例えば現在、残りの在庫数を手書きのメモやエクセルの表にして、顧客にLINEやFAXで逐次送ったり、電話で連絡するケースがあるが、atohamaでは相互に在庫数が明示されるため、こうした煩雑なやりとりが一切なくなる。言った・言わないの齟齬やヒューマンエラーも防止する。当然、集計も瞬時に行える。

紙や電話での受発注業務がなくなる効果は非常に高く、atohamaを導入した市場では、これまで午前2時頃に出社していたところ午前5時頃に出社時間を遅らせることが可能になった業者もあるそうだ。労働環境が劇的に改善することで長時間労働による疲弊を防ぎ、業界の持続可能性を高めていると言える。

「名古屋の荷受業者のある方は、これまで朝の2時に出勤し、11時に入荷案内をしてから退勤していたそうです。ただその後も在庫の連絡がひたすら続き、自宅に帰ってもプライベートの時間が取れなかった。それがatohamaを導入した今ではお子さんと過ごす時間も増え、趣味の草野球にもきちんと参加できるようになった。労働時間が減ることは、やはり従業員の生活への影響が大きいと言えるでしょう」(土谷さん)。

目指すは完全なデジタルインフラ化
パナソニックとの連携も加速中!

ウーオのサービスを使ったデジタルインフラのイメージ。

ウーオが目指すのは、水産流通に欠かせないデジタルインフラとなること

中央卸売市場の流通関係者は数千社と言われる中、現状の利用者数はその一部に留まっており、まずは各サービスを全国の主要な市場や中規模漁港へと広げていくことを計画する。サービスの完全な競合はおらず、これから新規参入して各事業者と関係を構築することは困難なため、業界から寄せられるウーオへの期待は大きい。

「UUUOが水産業の新しい売買インフラになれればと考えていますし、一部ではそれが達成できていると実感しています。これを全国に広げていくのが当面の目標です。また、日本人にとって魚は大切な資源であり、魚が流通していかないと食は豊かになりません。その流通を支える市場の荷受さんや仲卸さんが疲弊すると、どんどん市場の機能が先細りになってしまいます。業務効率化の部分でatohamaが各市場に入っていくことが結果的に消費者へおいしい魚が届くことに繋がると考え、両サービスを推進していきます」(土谷さん)。

2025年4月には、パナソニックとSBIインベストメントが共同で運営するコーポレートベンチャーキャピタルファンド(通称、パナソニックくらしビジョナリーファンド)と資本業務提携することを発表した。

パナソニックはスーパー向けのコールドソリューション事業を通じて小売店との接点を持ち、ウーオが抱える膨大な流通データを活用し、スーパーに適した仕入れを支援する仕組みを現在検討している。市場の相場変動に応じ、より安価で質の良い魚を効率的に仕入れるためのアルゴリズムを共同で開発中だ。ウーオ本体のサービスとともに、こうした取り組みにも注目していきたい。

DATA

株式会社ウーオ


文:本多祐介

アクセスランキング

  1. 【専門家に聞く!】これからの陸上養殖、参入企業が知っておきたいポイントは?
  2. 陸上養殖のメリット・デメリットは? 設備の選び方はどうする?ビジネス成功へのSTEPを紹介
  3. 映画『さよなら ほやマン』主演、アフロ(MOROHA)が感銘を受けた漁師の言葉とは
  4. 水産流通の革命的アプリ!「UUUO」「atohama」のデジタルインフラで市場の仕事をスマートに
  5. スルメイカ小型船漁獲超過、青森県が全国の6割 農林水産副大臣が改善要請
  6. 作業効率を上げる、漁業ワークウェアの名品5選を紹介!
  7. 好気環境で簡単・安全に窒素除去できる、閉鎖循環陸上養殖システムを開発
  8. 導入前から運営までワンストップ! 陸上養殖の新規参入をトータルサポート
  9. 「地方こそ、成長の主役」地方成長戦略の鍵を握る注目の取り組み「海業」を徹底解説
  10. 新規就魚者を地域で支える! 働くモチベーションを保つ仕組みづくり

フリーマガジン

「FISHERY JOURNAL」

vol.04 | ¥0
2025年7月25日発行

お詫びと訂正

 

» Special thanks! 支援者さま一覧はこちら