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「MSC認証」をスピード取得して販路拡大を実現! 食の安全性でブランド強化へ

牡蠣養殖の漁場として有名な瀬戸内市邑久町。国際的な認証を取得し強みにするべく、垂下式の牡蠣生産では世界初となる「MSC漁業認証」を取得。その後の変化や今後の思いについて、「邑久町(おくちょう)漁業協同組合」の代表理事組合長を務める松本さんに話を伺った。

メイン画像:穏やかな海面に1,300台もの筏が整然と並ぶ。「虫明湾」に朝日が昇る様子は、息を飲むほどの美しさ。

<目次>
1.持続可能な漁業への認証制度MSC「海のエコラベル」とは
2.認証取得へのプロジェクト開始から7ヶ月という異例のスピードで取得
3.漁業を取り巻く問題は深刻化。持続可能な漁業への取り組み

持続可能な漁業への認証制度
MSC「海のエコラベル」とは

広島県、宮城県に次いで、全国3位の生産量を誇る岡山県の牡蠣。中でも瀬戸内市邑久町では、筏に縄を吊るして育てる「垂下式(すいかしき)漁法」で牡蠣の養殖を行っており、その生産量は岡山県内の半分ほどを占めている。


ロープに連なるホタテの数は20個ほど。潮の穏やかな内湾の筏に吊るし、養殖のスタート。この作業を本垂下という。

今、岡山県瀬戸内市邑久町の「邑久かき」が注目を集めている。「海のエコラベル」として知られる『MSC漁業認証』を、垂下式の牡蠣生産では世界初の取得となった。認証を受けた水産物にはラベルが付けられ、安心・安全の証として消費者の購買を促進できるメリットがある。実際に、海外の小売店などでは認証を受けた魚を優先的に扱っており、「イオン」を始めとする日本の小売店でもその取り組みの輪は広がっている。
 

MSC漁業認証のメリット


水産資源と環境への配慮、持続可能な漁獲が行われているかなどの厳格な審査を受け、規格を満たした水産資源に与えられる認証制度。消費者にとっては、「安心して食べられる」「次世代へ水産資源を残していける」といったメリットがあり、トレーサビリティを重視する海外では優先的に取り扱われるなどブランドとして価値があるとされている。


TOP VALUで販売されている邑久町の牡蠣を使用したカキフライ。MSC認証取得の証としてラベリングされている。

 

認証取得へのプロジェクト開始から
7ヶ月という異例のスピードで取得

2019年、全国にスーパーマーケットを展開する「イオン」から「MSC漁業認証を受けた牡蠣を仕入れたい」と声を掛けられたことをきっかけに、牡蠣の卸販売を手掛ける「株式会社マルト水産」主導のもと、邑久町漁業協同組合とともに『MSC漁業認証取得』に向けたプロジェクトがスタート。認証取得を目指すにあたって、代表理事組合長を務める松本さんと若手漁師を中心に「邑久町の牡蠣をもっと知ってもらおう」と呼びかけ、チームが結成した。


「虫明湾」付近は何軒もの生産者の牡蠣剥き作業場が軒を連ねる。

「持続可能な漁業を行なっていくために、これからの漁業を盛り上げていく若手漁師たちを中心にチームを構成しました。仮に認証が取得できなかったとしても、若手たちに海を大切にする意識が残ればいいという思いがありました」と松本さんは話す。

『MSC漁業認証』を取得するためには、さまざまな調査や書類の提出が求められるという。生態系への影響や法律の遵守など、漁業者にとっては直接関係の無いデータの提出も求められるなか、1300台(2024年)ある牡蠣筏の生産記録の徹底した管理、種取りから出荷までを地域内で完結できていたことから、認証取得まで平均で12ヶ月から18ヶ月かかるところを7ヶ月という異例のスピードで取得した。

記録を続ける中で松本さんが驚いたのは、絶滅危惧種であるスナメリが漁場に住み着いていたということだ。

「邑久町漁協組合では、99%が牡蠣漁師です。定置網を挙げた際に出るおこぼれの魚に絶滅危惧種のスナメリが寄ってきていたんです。漁師とスナメリの交流は昔からあったようなんです」。

瀬戸内海における食物連鎖の頂点ともいえる存在のスナメリが住んでいるということは、美しい漁場であると考えられる。

「認証取得後、『邑久かき』は全国のスーパーマーケットや小売店で販売されるようになりました。自分たちが作った牡蠣だとわかるので、漁師たちにとって大きな喜びに繋がっています」。

「邑久かき」としてのブランドは強化され、漁師たちのモチベーションも向上していると松本さんは話す。

漁業を取り巻く問題は深刻化
持続可能な漁業への取り組み

「かつて組合には100軒を超える牡蠣漁家が所属していましたが、2023年は55軒にまで減っています。後継者不足により、さらなる減少が危惧されます。牡蠣養殖は、漁業の中でも安定した生産が見込めます。漁業就業支援フェアにも出展し、少しでも新規就業者を増やしたいと考えています」。

そう話す松本さん自身も、異業種から牡蠣漁師へと転職。元々は商社で営業マンとして働いていたそう。妻の家業であった牡蠣養殖に後継者がいなかったことから、1999年に40代で未経験の牡蠣養殖の道へと進んだ。


牡蠣の幼生が付着したホタテの貝殻をロープで連ねていく。作業は船の上で、長時間に及ぶ。

「地球温暖化に伴う海水温の上昇は、漁業にも深刻な影響をもたらしています。今年4月に環境省が実施する『脱炭素先行地域』に瀬戸内市が選ばれ、邑久町漁協も共同提案者として参画しました。これまで焼却処分していた廃棄筏をチップ化し、燃料として再利用する計画をスタートさせました」。

将来にわたって海の豊かさを享受するために、持続可能な漁業を行う「邑久町漁業協同組合」の挑戦から、目が離せない。

 

取材協力

邑久町漁業協同組合 代表理事組合長

松本正樹さん


文:小川茜
写真:加藤晋平

FISHERY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載

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