【稼げる漁業】魚を獲るのは注文を受けた分だけ。収入の安定を実現する完全受注漁
2025/03/31

夜が明ける前に港を出航し、長時間労働が常態化しているのが漁師の仕事。そんな一般的なイメージを覆す働き方をしている漁師が岡山にいる。注文が入った分だけ獲り、残りは海に逃すという「受注漁」はどのように生まれ、継続しているのだろうか。
1.逆算の思考で稼げる漁を実現 直販を活用して売上を2倍に!
2.直販でうまくいくコツは?
‐「獲る」以外の技術を学ぶ
‐売って終わりにしない。続いていく関係を築く
‐自分に合った働き方をつくる
逆算の思考で稼げる漁を実現
直販を活用して売上を2倍に!
「受注漁の最大のメリットは、価格変動がないことです。普通に市場に出荷していると、全体の漁獲量によっては半値に下がったりすることがありますが、それが非常にストレスで。自分で価格を決定できると、心と身体に余裕が生まれるんです」。
現在は朝5時頃に出勤し、昼前には帰宅する働き方で、実働は5〜6時間。一般的な漁師に比べてかなり短い。
そう語るのは岡山県玉野市で底曳き網漁を行う「邦美丸」の富永邦彦さん。大量に獲れた魚を市場に卸すというこれまでの漁業とはうって変わって、飲食店や消費者から注文が入った分のみを獲る「受注漁」を成功させた漁師だ。直販ならば価格は自分次第で、漁獲量の計画もできる。結果、操業時間はこれまでの半分程度になり、売上は2倍に増えるという驚きの成果を残した。必要な分だけ獲るので海の資源を守ることにもつながっている。
玉野市観光協会と進めている「黒鯛プロジェクト」は市場価格よりも高値で黒鯛を買い取り、市内の飲食店へ卸すことで、地産地消を促進するもの。漁師全体の収益もアップした。
漁師も直販ができるのか──。2013年、富永さんはのちにテレビドラマ『ファーストペンギン!』のモデルとなる萩大島船団丸の取り組みをニュースで知り、その発想に衝撃を受けた。これは漁師の収入を増やす一手になると感じ、漁業協同組合に相談。建設的な議論を重ね、双方が納得する直販のルールを定めていった。
コロナ禍に入ると個人の客からの注文が大幅に増加し、2023年から完全受注漁での直販に切り替えた。今では家族と過ごす時間も増え、理想的なワークライフバランスを実現している。
一般消費者向けのおまかせセット「お魚ボックス」。時期によっては魚種指定の受注も。
直販でうまくいくコツは?
1.「獲る」以外の技術を学ぶ
飲食店や一般家庭への配送には、鮮度を保つ魚の締め方である「神経締め」や、梱包の工夫が欠かせない。漁師の範ちゅうにはない技術のため、富永さんは兵庫県や山口県へ出向いて締める技を習得し、梱包においても魚が傷まない方法を学んだという。
2.売って終わりにしない。続いていく関係を築く
「コンセプトは『あなたの専属漁師』。近所にあるような魚屋さんを目指したい」と富永さん。飲食店であれば先方が好む魚種や大きさを覚えて提案したり、個人客には配送時にその魚種のおいしい調理法を伝えたりしている。コミュニケーションが相互に発生する関係性を築くのが大切だ。
3.自分に合った働き方をつくる
富永さんの受注漁は常識にとらわれない漁師の働き方のモデルになった。地域や漁協によって可能・不可能はあるだろうが、富永さんのケースを参考に、自身にとって最善の働き方を追求していただきたい。漁師の新規就労を増やすことにもつながるはずだ。
PROFILE
富永邦彦さん
株式会社邦美丸(くにみまる)代表。岡山県玉野市胸上にて、4月〜9月は底曳網漁、10月〜3月は海苔の養殖を行う漁師。妻の美保さんとともに、完全受注漁を確立。この取り組みが高い評価を受け、2023年にはポケマルチャレンジャーアワードやジャパン・サステナブルシーフード・アワードなど12もの賞を受賞した。
Instagram:@kunimimaru
文:本多祐介
FISHERY JOURNAL vol.3(2025年冬号)より転載