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インタビュー・コラム

【インタビュー】全国漁港漁場協会 会長に聞く、水産業を支える3つの整備と、その取り組み

業界を支える人物たちが、自身の経営哲学や課題解決への視点、これからの漁業の未来を綴る本連載。今回は、漁港・漁場・漁村の総合的整備と利用の推進を図る「全国漁港漁場協会」に注目。「漁港情報クラウドシステム」の開発背景、持続可能な水産業に向けた取り組みについてお話いただいた。

第1回目「【インタビュー】魚食文化が直面する課題とは? 漁業を目指す若者へ」
第2回目「【インタビュー】世界でも注目を集める、ブルーカーボンの可能性とは?」

漁港・漁場・漁村の整備を
通じて水産業を支える

水産業の最たる役割は、水産物の安定供給です。また、地域社会の形成、海の環境保全、不審船の監視といった安全安心の確保など、さまざまな役割を担っています。水産業の拠点となるのが漁港です。規模はさまざまながら、漁港は全国津々浦々に約2,800港があります。漁港の管理を担っているのは都道府県や市町村で、各管理者が定めた漁港管理条例に沿って維持管理を行っています。

漁港を管理するために、防波堤や岸壁といった漁港施設の構造、規模、整備時期などが記された「漁港台帳」が整備されます。漁港台帳を紙で保管している自治体が多く、東日本大震災が発生した際には、台帳が津波で流され、漁港の災害復旧に多大な支障が生じました。

日本は災害が多い国ですから、この経験をふまえ、当協会では2016年より「漁港情報クラウドシステム」の運営を開始しました。これは、漁港台帳などを電子化してクラウド上の安全なサーバーで一元管理できるシステムです。

出典:全国漁港漁場協会HP

このシステムを導入することで、各種情報を場所や時間を選ばずに利用できるため、技術者不足が深刻化する地方自治体においても、漁港の機能保全や災害対応といった幅広い作業が効率化されます。現在、より多くの自治体にクラウドシステムを導入してもらえるよう、周知に力を入れています。

出典:全国漁港漁場協会HP

漁業は多くの課題に直面しています。海の環境が大きく変わったために主要魚種の不漁や水揚げされる魚種の変化が起き、磯焼けも拡大しています。また、南海トラフ地震など大規模地震・津波の発生が懸念されていますし、台風が大型化しています。さらには漁港施設などの老朽化や漁業就業者の減少・高齢化も大きな課題となっています。

このような中、漁港・漁場・漁村の整備においては、次のような取り組みがなされています。

    1つ目は、漁獲された魚の品質を高めて、できる限り価値を付ける取り組みで、輸出への対応も視野に入れたものです。
    高度に衛生管理された市場、冷凍冷蔵庫や加工場などの再編・整備を進めるとともに、養殖業に力を入れる地域では、静穏な水域の造成や養殖関連施設を備えた漁港の整備などを行っています。

    2つ目は、海の生産力を回復させるための取り組みです。
    例えば磯焼け対策として、海藻が着生するためのブロックの設置、食害生物の駆除といったソフト対策を一体的に進めています。

    3つ目は、漁業者の大切な財産である漁船、漁港内の各種施設、漁村で暮らす住民の命と財産を守ることを目的とした取り組みです。
    防波堤のかさ上げや耐震・耐津波対策、避難路の整備、施設の老朽化診断や保全工事などを行っています。

    4つ目は、漁村の活性化を目的とした重要な取り組みである「海業(うみぎょう)」です。
    海業とは、地元で採れた魚を扱う食堂・直売所の運営や漁業体験など、漁村に収益増加の機会やにぎわいをつくる事業です。法律が変わり、漁港が海業の場として積極的に使えるようになりました。この他にも、浮桟橋や漁港内の屋根の設置などを行い、働きやすい漁港づくりを進めています。

全国漁港漁場協会では、必要な施策の実現や予算獲得を目的に地域の要望を取りまとめる全国大会や、国などの施策を普及啓発するための研修会の開催など、さまざまな活動をしています。人々の食を支え、安全安心にも貢献する水産業は、我が国や社会に欠かせない重要な産業です。

ぜひ、若い方々に水産業に参入していただきたいと思います。スマート水産業、藻場の保全活動、海業などにも挑戦し、漁村に新しい風を吹き込んでください。全国漁港漁場協会は、頑張っている方々がおられる地域をしっかりと応援していきます。

PROFILE

公益社団法人全国漁港漁場協会
会長

髙吉 晋吾氏


1957年4月福岡県生まれ。九州大学大学院工学研究科修了。1982年4月水産庁入庁、水産施設災害対策室長、整備課長、計画課長、漁港漁場整備部長、2017年1月退職。一般財団法人漁港漁場漁村総合研究所理事長を経て、2023年6月より現職。


FISHERY JOURNAL vol.3(2025年冬号)より転載

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