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インタビュー・コラム

漁業で若手が集まる職場づくりの秘訣は?黒瀬水産の完全養殖と若手育成の現場に迫る

宮崎県の最南端・串間市を拠点に構え、最先端の技術で1年中高品質なブリを生産・出荷し続ける黒瀬水産。毎年15名ほどの安定した新卒採用を可能にし、若手が働きたいと集まってくる同社の「魅力ある職場つくり」に迫る。

<目次>
1.技術力と省力化が支えるサステナブルな次世代養殖業
2.1日のタイムスケジュール
3.働きやすい職場づくりのポイント

 

技術力と省力化が支える
サステナブルな次世代養殖業

完全養殖の「黒瀬ぶり」の生産をはじめ、世界初となるブリ養殖のASC認証(環境と社会に配慮した責任ある養殖業を認証する国際認証制度)を取得するなど、持続可能な漁業の実現に向けた取り組みを続ける黒瀬水産。そのサステナブルな事業に共感して入社を志す若手も多く、毎年水産高校や大学から15名ほどの新入社員が入社。現在は社員の約6割が30代以下と業界でも例を見ない若年化が進んでいる。代表取締役社長の立川捨松さんはこう語る。

「通常の養殖業では天然の稚魚から成育を行いますが、完全養殖では人工種苗から生育を行います。そのため天然資源へ依存せず、生態系に影響を与えない生産活動が可能です。また、沖合で養殖を行っているため、沿岸養殖よりも環境負荷を抑えられるのも利点です。5年後、10年後を見据えたサステナブルな活動に高く評価をいただき、水産学校の先生方から黒瀬水産を推薦いただくケースも多いようです」。

サステナブルな視点は人材育成にも通ずる。新入社員には3ヶ月間のOJT期間が設けられ、種苗生産、養殖、加工の全ての部署を経験した後、適正と希望を受けて配属される。会社全体の事業内容を理解するとともに、同期との関係を構築するのが目的だ。「横の繋がりは仕事を続けるうえで心の支えになります」と立川さんは言う。

また、養殖部署では給餌や潜水など役割ごとに数名のチーム制で動く。早くから船長など責任あるポジションを務めることができるため、若手がモチベーションを持って働ける。

さらには、社員の実態を数値化するツール「エンゲージメントサーベイ」を導入。仕事や職場への不満や課題を浮き彫りにして、明確な改善を行うことで、働きやすい職場の実現に取り組んでいる。

一方で、自然相手の仕事ならではの課題もある。「弊社では今年から年間休日を100日まで増やすことができましたが、まとまった休みを取ることが難しいのが現実です。養殖業の働き手を増やすにはここの改善は避けて通れません。今後は、大型生簀の増設やスマート化を推し進めて、さらなる省力化を目指していく予定です。そして、事業の拡大も進めていく。養殖業を『稼げて、働きやすい仕事』にしていくことが、業界全体の担い手不足解消に不可欠だと思います」。

国内トップランナーが示す次世代の働き方。漁業、養殖業が若手から選ばれる職業になる日もそう遠くないと思わせてくれる。

1日のタイムスケジュール

作業ごとに班分けがされており、一業務に集中できるチーム制を採用。水揚げ班は早朝3時から、潜水班は6時頃からなど、班ごとに出勤時間は異なるが、勤務1日あたり9時間程度。各人が幅広い技術を習得し、様々な業務に携われる体制づくりを推進しているため、急な欠員などのフォロー体制も整っている。

水揚げ班 3:00~12:00

年間約10万トン生産されている国内の養殖ブリ。その約1割を占める黒瀬水産の水揚げ量は1日あたり5~6千尾、繁忙期は2万尾にもなるが、経験豊富な従業員が協力し合い、効率的な作業を行っている。


給餌班 7:00~16:00

給餌船で生簀を周り、ブリの生育に合わせて適切なエサやりを行う。大型生簀(メイン写真)を一部導入したことで、生簀間の移動の手間を減らし、作業時間短縮や燃料費の削減など効率化にも取り組んでいる。


潜水班 6:00~15:00

死んでしまったブリの引き上げや、サメの侵入の危険のある網のほつれなど、生簀内の異常を発見する潜水作業。社員潜水士の資格を取得にかかる費用は会社が負担。身体に負担のかかる作業のため特別手当が1日単位で支給される。



その他、生簀を係留する設備のメンテナンス、分養など養殖全般に関わる幅広い業務を行う班もある。


また、高性能な労務機器や養殖網水中洗浄機の導入をはじめとするスマート化・DX化を推進。例えば、ブリの生育サイズの測量作業は、水中カメラのデータを用いてAI自動測量を実装している。

働きやすい職場づくりの
ポイント

給与
初任給は、大卒:220,000円、高卒:181,000円からスタート。等級制を採用しており、査定は年一回。潜水手当、洋上手当、特殊潜水手当、出荷手当など手当も充実。資格取得時にはお祝い金の支給も。

休暇
毎週日曜日+シフト制。DXやスマート機器の導入で省力化が進み、本年度より年間休日を100日まで引き上げた。時間有給を年2日分まで取得でき、通院などプライベートな予定とも両立しやすい。

将来性
等級制によるわかりやすい給与体制やサーベイによる従業員の職場満足度の可視化を行い、モチベーション高く長く働ける環境を整備。女性の管理職も誕生しており、性別を問わず活躍できる。

取材協力

黒瀬水産株式会社
代表取締役社長

立川 捨松さん


漁業の発展には水産資源はもちろん働き手のサステナビリティが欠かせません。次世代が漁業を仕事にしたいと思える魅力と可能性を示していきたいです。

DATA

黒瀬水産株式会社
宮崎県串間市西浜2丁目15-4
従業員構成:275名 10代16名、20代89名、30代52名、40代52名、50代30名、60代29名、70代3名(内、女性48名)
※2025年7月現在。養殖のほか生育、加工などすべての部署を含む。


写真:田村 涼

FISHERY JOURNAL vol.4(2025年夏号)より転載

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