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インタビュー・コラム

【インタビュー】世界でも注目を集める、ブルーカーボンの可能性とは?

業界を支える人物たちが、自身の経営哲学や課題解決への視点、これからの漁業の未来を綴る本連載。第二回のテーマは、「2050年カーボンニュートラル」。その実現に欠かせないのが、海の資源や広大な海域の活用だ。東京水産振興会理事の長谷成人さんに、解説していただいた。

藻場の造成は
地球温暖化の抑制に寄与する

現在、ブルーカーボンクレジットの制度(※)は、国内に複数存在します。こうした制度が国内で創設されてからまだ日が浅いといえますが、年々、認知度が高まりつつあります。これは非常に喜ばしいことです。藻場の衰退は「磯焼け」と呼ばれ、全国的に問題となっています。

今後、この制度を活用する企業や団体がさらに増えることで、藻場の衰退に歯止めがかかり、漁業や漁村の存続に繋がっていくであろう、と期待が集まっています。

地球温暖化対策の観点からみても、藻場の造成は注目されています。2019年、国連に参加する海洋国の首脳陣により、気候変動の緩和と持続可能な海洋経済の発展を目的とした「5つのアクション」が採択されました。この「5つのアクション」の1つには、「沿岸海洋生態系・海藻養殖(ブルーカーボンによる吸収)」も含まれています。短期的な視点でみた場合はとくに、即効性があるブルーカーボンによるCO2削減には、特筆すべき効果が認められているのです。藻場を有する漁業や漁村は、地球温暖化の抑制に寄与するという事実は、社会でもっと認知される必要があります。

(※)海草や海藻に吸収・貯留された炭素を定量化し、「クレジット」として売買する制度。

洋上風車の設置計画と
漁業者が抱える不安

日本における主な発電方法は火力発電で、国内で発生しているCO2の大きな排出源になっています。この事実をふまえてカーボンニュートラルを実現する方法を考えると、火力発電を減らし、代わりに洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーを増やす必要があるのは明らかです。

国も再生可能エネルギーの普及を推し進めており、2018年12月には、海洋再生可能エネルギーの普及を目的とした「再エネ海域利用法」が国会で成立しました。これに先立つ2013年、当時の(一社)海洋産業研究会が、洋上風車の基礎部分は魚礁としての機能を発揮すること、施設の保守点検などでの漁船の活用をとおし、雇用が創出されることなどを前提に、漁業協調の提言を出しました。


洋上風車を海に設置すると、海中部にある風車は海の生物にとって格好の隠れ家や住処となるため、その周囲には魚やエビ、カニなどが群がります。これは、泳ぎ回らない根付きの資源や磯根資源を対象とする漁業者や漁村にとってはありがたい効果です。

しかし、定置漁業をはじめ、来遊する魚を待って漁獲する漁業では「来遊前の水域に風車が林立することで魚の通り道が変わってしまうのではないか」という懸念が生じます。

また、大きな漁具を運用する沖合漁業は、風車が林立した場合、操業が困難になります。例えば大中型まき網で使う漁網は、長さ1800m、深さ250mほどにもなる巨大な網です。洋上風車が何十本も林立している海では操業できません。洋上風力を行う海域と定置・沖合漁業の海域は、物理的に分ける必要がありますし、たとえ棲み分けができても、漁業者には魚への影響について懸念が残ります。

「2050年カーボンニュートラル」を実現するためにも、円滑に洋上風力発電を導入できる方法を真剣に考えていく必要があります。この状況を変えるためには、もっと行政が主導して棲み分けの作業をするとともに、魚に与える影響の調査を進める必要があると思います。

PROFILE

一般財団法人 東京水産新興会 理事
海洋水産技術協議会代表・議長

長谷 成人氏

北海道大学水産学部卒業後、水産庁入庁。資源管理推進室長、沿岸沖合課長、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。


FISHERY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載

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