スマート漁業の未来! スマホ一つで始める鮮魚ビジネスから生産性をアップする最新技術が集結
2024/12/25
去る12月9日、農業や漁業の課題に立ち向かうキーマンたちが集結する「ALL JAPAN CONFERENCE」が初開催された。漁業に関する興味深いピッチを行った3社を紹介しよう。
1.第1回 ALL JAPAN CONFERENCEとは?
2.世界一旨い魚を養殖で作る 株式会社さかなドリーム
3.気軽に産直の魚の売買を 株式会社SAKAMA
4.漁の空振りを無くし、生産性をアップ! 株式会社オーシャンアイズ
5.先駆的な取り組みを波及させ一次産業を変える契機に
第1回 ALL JAPAN CONFERENCEとは?
イベント当日の会場の様子
2024年12月9日、東京都の港区立産業振興センターで開催された「第1回 ALL JAPAN CONFERENCE」は、自治体と首都圏の事業者を結び、社会課題の解決や新規事業の創出、地域経済の活性化を目指すビジネスマッチングイベントである。
テーマに掲げるのは「農業・漁業のリストラクチャーを目指して」。インフラや流通、担い手不足、地域格差などへの具体的なアクションを共有しながら、日本の一次産業について深く考える機会を提供する。
メインプログラムの事業者ピッチでは、食、農業、漁業の分野でソリューション事業を行う15社が取り組みを発表。5分という短い時間をいっぱいに使ってサービス内容を熱く語りかけた。登壇した3社をピックアップして紹介する。
世界一旨い魚を養殖で作る
株式会社さかなドリーム
代表取締役 細谷俊一郎さん
「世界一旨い魚を創り、届ける」という企業理念のもと2023年に創業した水産スタートアップ企業。イチゴや豚といった農産物・畜産物において一般的な品種改良を魚にも適用し、高付加価値な養殖魚を生み出す事業を行っている。
味のいい「カイワリ」の品種改良種は非常に高い評価を得た
直前にテスト販売したオリジナル養殖魚「夢あじ」は、優れた味わいを持つアジ科の希少魚「カイワリ」にマアジを掛け合わせた新品種で、一般的な養殖魚よりも高い価格で取引された。カイワリは市場に出回ることが少なく、子どもを作らせるのが難しい魚でもある。
さかなドリームが主導して養殖の委託・営業・PRを行う
これを実現するのが、共同創業者である東京海洋大学の吉崎悟朗教授による研究成果。養殖魚を安定的に生産する手法は「獲る漁業から作る漁業、育てる漁業にシフトしていく中、非常に有効な手法」と細谷さんは説く。
養殖業者にとってリスクのないビジネスモデルも革新的だ。
気軽に産直の魚の売買を
株式会社SAKAMA
代表取締役 柴田壮潤さん
2015年に創業し、水産物の流通の効率化や、産直システム、飲食店向けの発注ツール・食材管理システムの開発に携わってきた。2019年にリリースしたのが、鮮魚の仕入れと販売が簡単にできる鮮魚流通プラットフォーム「サカマアプリ」である。
全国の漁業者から直接購入できるサカマアプリ
「サカマアプリ」は、全国の漁師や仲卸が朝とれた魚をアップして、ECサイトと同様のユーザーインターフェースで売買ができるスマートフォンアプリ。飲食店や個人の消費者はアプリからオーダーし、最短24時間で魚が届けられる。売り手・買い手のどちらにもメリットがある仕組みだ。
現状では、販売側の売りたいタイミングと購入者が買いたいタイミングが合わずマッチングしないケースが起きているのが課題。「全国の水揚げデータを収集・分析して漁獲量を予測し、計画的な注文と発送が行えるのが理想。天然魚のシーズンもカレンダー化して、予約注文が入るようにしていきたい」と語った。
漁の空振りを無くし、生産性をアップ!
株式会社オーシャンアイズ
代表取締役社長 田中裕介さん
オーシャンアイズは海洋データ解析技術で社会貢献を目指すディープテック企業で、メンバーは京都大学とJAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究者で構成されている。「海洋シミュレーション」=海の天気予報と、「画像解析の海洋データへの応用」の2つのコア技術で事業を行う。
魚がいる場所の特定があらかじめできていれば、船のエネルギーの節約にもなる
現在は主に、Webアプリの「漁場ナビ」で魚がどこで獲れるかの場所情報を漁師に提供している。漁師は魚を探すことに多くの時間を使っている傾向があり、時間的なロスが多い。そこで海水温や潮目などの各種海洋データ、実際に魚が獲れたデータ、画像解析等でシミュレーションし、漁場を予測して情報提供する。
「海の天気予報」は他の産業や研究にも活用できる
この技術は、東京都と千葉県ですでに採用されているという。またこれらの海洋データは海運や洋上風力発電など他分野にも生かすことができ、連携する取り組みも進めている。
先駆的な取り組みを波及させ
一次産業を変える契機に
本イベントの主催者である港区立産業振興センターによれば、「港区は事業所数では日本一だが、農業はゼロで、漁業はわずか。しかし連携協定を結んでいる全国各地の自治体にはそれらの産業が溢れている。その一方で地方にはソリューションが出てきにくい現状がある。ならば、その二つを補完し合おうというアイデアから生まれた企画」だという。
地方の農業・漁業が抱える課題は、首都圏の企業が解決してもいいし、別の地方のソリューションを適用してもいい。そのハブになるための企画というイベントの趣旨が興味深かった。
今回のビジネスマッチングによって一次産業が活気づいていくことを願う。
文:本多祐介