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不安定な収入や長時間労働のイメージを刷新! 新卒が集まる「サラリーマン漁師」

高知県室戸市から飛び出した「サラリーマン漁師」という言葉が注目を集めている。漁獲量に左右されない固定給、モチベーションが上がるボーナス、確実に取得できる休暇、残業のない就労時間……。新卒の若者から就職希望が急増しているその働き方を生んだ背景に迫った。

<目次>
1.安定こそが若い世代に刺さる現代の価値観に合わせた改革
2.1日のタイムスケジュール
3.働きやすい職場づくりのポイント

 

安定こそが若い世代に刺さる
現代の価値観に合わせた改革

高知県東部に位置する室戸市では、市内4ヶ所の地域で明治時代から100年以上にわたって続く「大敷網」と呼ばれる定置網漁が行われている。漁法は伝統的だが、数年前から〈新しい漁師の働き方〉として注目を集めるようになった。そのキーワードが「サラリーマン漁師」だ。

一般企業の会社員と同様に固定給で賞与があり、規定の時間内に仕事が終わって、休暇もきちんと取得でき、さらに各種手当てや福利厚生もついた「安定」がその強み。また、組合や企業が船を所有するため、個人で船を持たなくても漁師になれる敷居の低さも魅力となり、就職希望者が急増している。

中でも20代の新卒採用が多い三津大敷株式会社の事務長・山本幸生さんに、サラリーマン漁師を可能にした背景を聞いた。

「大敷網は全長数100mの網を使い、乗組員全員で力を合わせて漁を行いますので、組合や企業に属する働き方が元々根づいていました。加えて、室戸の海は陸から数kmのところで水深1000m級になることから、港から近距離で漁ができ、就労時間が長くかかりません。なので、基本的な働き方は昔から変わっていないんです。

ただ、漁師=不安定な仕事というネガティブなイメージが払拭できず働き手不足が深刻化していた中で、椎名大敷組合が〈サラリーマン漁師〉という分かりやすいキャッチコピーを使って採用活動を行ったことで反響があり、それが広まっていきました。さらに、当社はリアルなサラリーマン漁師として働き方改革が進んでいます」。

実は、もともと同社は組合だったが3年前に大手水産会社とM&Aを締結。株式会社化して再スタートした。「グループ企業の傘下に入ったことで待遇がさらに良くなり、有給休暇の取得率アップや健康診断の受診率アップなどホワイト化が進んでいます」。

20代のある従業員は当初両親から漁師になることを反対されていたが、『サラリーマン漁師ならOK』と承諾してもらえたという。また、前例のない女性からの応募もあった。採用にあたって船上になかったトイレを新設。女性は諸事情で退職したが、その後20代男性から「船にトイレがあるのは安心」と受けが良いという。

「漁業には昔ながらの考え方が根強いが、これからは若い世代の価値観に合わせていくことが必要。特に『休暇』は重要な要素なので、市場や慣習ではなく漁師ファーストで改革を続けていきたいです」。

1日のタイムスケジュール

港から漁場まで船で15分程度という近い距離にあることから、1回の漁にかかる時間は1時間30分程度。漁は基本的に1日2回行われるが、市場の状況によって1回だけになる日もある。従業員全員が港のそばに住んでいるため、休憩時は一時帰宅することになっている。

働きやすい職場づくりのポイント

給与
未経験・新卒で基本給20万円からスタート。25歳未満は年齢×1万円、以降は能力に合わせて手当が増える。たとえ不漁でも基本給を下回ることはなく安定。豊漁の年は賞与が増額となり、しっかり稼げる!

休暇
県漁協が定めた休市日(月4回以上)の他、年末年始や夏季などに連休もある。また、会社員ならではの有給休暇制度もあり、1〜2人休んでも漁を行えるため会社は積極的に取得を促している。

将来性
年功序列や地元出身者への優遇などではなく、評価は実力主義。網持ちからトップの船長まで、役職に応じて給与がUPする。また、サステナブルな漁法である大敷網は、次世代の価値観にもマッチ。

取材協力

三津大敷株式会社
事務長

山本 幸生さん


私は若い従業員に教わりながらSNSでの広報活動に力を入れています! まさか自分が動画を作るなんて思いもしませんでしたよ(笑)でも、次世代に向けて必要なことは若い世代から学ぶのが一番です!

DATA

三津大敷株式会社
高知県室戸市室戸岬町1920番地
従業員構成:漁師23名、事務員1名(内訳:20代6名、30代3名、40代2名、50代4名、60代8名、70代1名、すべて男性)


文:高橋 さよ
写真:川村 公志

FISHERY JOURNAL vol.4(2025年夏号)より転載

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