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【高市政権】陸上養殖が切り拓く次世代食料安全保障 最先端のスマート技術に集中投資

高市政権が掲げる「戦略17分野」において、陸上養殖はフードテックの中核に位置づけられた。海洋環境の変化に左右されない循環式陸上養殖(RAS)は、食料安全保障の強化と水産業の成長を両立するカギとなる。ICTやAIを駆使したスマート技術への集中投資により、安定供給体制の構築と産業化の加速が期待される。

<目次>
1.「戦略17分野」を掲げた 高市政権の決断
2.フードテックの中核を担う 陸上養殖の役割
3.循環式養殖システムが もたらす安定生産
4.ICTと自動化が加速させる 産業化の道筋
5.官民連携による 大規模投資と拠点整備
6.海外市場への展開と 国際競争力の強化
7.獲る漁業から管理し、創造する産業へ

 

「戦略17分野」を掲げた
高市政権の決断


水産業を取り巻く環境(出典 水産庁)

高市政権は、2025年10月の発足直後から「強い経済」の実現に向けた舵を大きく切った。2026年に入り、その中核となる「サナエノミクス」の具体策が次々と明らかになっている。

世界各国が巨額の財政出動を通じて自国の成長産業を育てる「産業政策の大競争時代」にある中、日本政府はAI、半導体、造船、防衛などを含む「戦略17分野」を決定し、官民連携による集中投資を開始した

この戦略の根幹には、他国に依存しない「自立性」の確保と、世界における日本の「不可欠性」の確立という、経済安全保障上の強い意図がある。従来の単年度予算の枠組みを打破し、複数年度にわたる長期的な支援と予算編成を可能にすることで、民間企業の予見可能性を高め、積極的な投資を誘発する仕組みを整えた。

政府は4月までに、これら17分野の中から優先的に支援すべき61の製品・技術を選定し、具体的な工程表となる「官民投資ロードマップ」の策定を進めている。

日本経済にはびこる「縮み思考」を打破するため、政府自らがリスクを負って投資の呼び水となる姿勢を示したことは、産業界に大きな一石を投じた。城内実成長戦略担当相が指摘するように、民間投資を萎縮させてきた固定観念を取り払い、成長への期待を行動に変えることで、デフレスパイラルからの完全脱却を目指している。
 

フードテックの中核を担う
陸上養殖の役割


ICTを活用したスマート養殖(出典 水産庁)

戦略17分野の一つとして位置づけられているのが「フードテック」である。その中でも特に大きな期待を集めているのが、循環式陸上養殖(RAS)を中心とした次世代の養殖システムだ。

これまで日本の水産業は、地球温暖化に伴う海水温の上昇や海洋環境の変化、さらには赤潮、寄生虫、そして国際的な資源争奪戦の影響を強く受けてきた。これに対し、陸上養殖は陸上のタンク内で飼育環境を完全に制御するため、天候や海洋汚染に左右されることなく、安全で安定した魚介類の供給が可能となることが期待されている。

政府が掲げる選定基準である「国内リスクの低減」「海外市場の獲得可能性」「関係技術の革新性」の3点において、陸上養殖は極めて高いポテンシャルを有している。

食料自給率の向上という国家課題に対する有効な手段となるだけでなく、高度な水処理技術やセンサー技術を組み合わせたシステム全体をパッケージ化し、世界市場へ輸出する道筋も描かれている。これは、日本の製造業が培ってきたエンジニアリング能力と、水産業の知見が融合した新しい輸出産業の姿といえる。
 

循環式養殖システムが
もたらす安定生産


福岡県豊前市にあるサケの陸上養殖施設(出典 水産庁)

陸上養殖の中でも、特に「循環式陸上養殖(RAS)」への投資が重点化されている。

RASは、使用する飼育水を高度な濾過システムで浄化し、再利用する仕組みである。従来の掛け流し式に比べて水の使用量を劇的に抑えられるため、沿岸部に限らず山間部や都市近郊、さらには工業団地の跡地など、場所を選ばずに設置できる利点がある。この柔軟性が、輸送コストの削減や地産地消の促進に大きく寄与する。

また、閉鎖的な環境で飼育することで、外部からの病原菌の侵入を遮断できる。これにより、抗生物質などの医薬品使用を最小限に抑えた「クリーンな魚介類」の生産が可能となり、消費者の食の安全に対する意識の高まりにも対応している。投資家や企業関係者にとって、この生産過程の透明性と制御可能性は、事業の予見可能性を高める極めて重要な要素となっている。
 

ICTと自動化が加速させる
産業化の道筋


福岡県豊前市にあるサケの陸上養殖施設(出典 水産庁)

今後の動きとして、政府は陸上養殖の産業化に向けた技術革新を加速させる方針だ。官民投資ロードマップでは、AIやICTを活用した「スマート養殖」への移行が強く打ち出されている。具体的には、センサーによる水質の24時間リアルタイム監視、AIによる個体の成長解析、そして最適な給餌タイミングの自動判断といった技術の実装が進められている。

これまで養殖現場では、熟練者の経験や勘に頼る部分が大きかった。しかし、デジタル技術を導入することで、給餌のムダを省き、飼料コストを最適化することが可能になる。また、水槽内の清掃や死魚の除去などを自動化するロボットの開発も進んでおり、深刻な人手不足に悩む地方自治体や漁協の関係者にとっても、省力化による持続可能な経営体制の構築を後押しするものとなる。
 

官民連携による
大規模投資と拠点整備

陸上養殖の普及における最大の課題は、施設建設に伴う多額の初期投資と維持コストである。この点について、高市政権は複数年度にわたる基金の設置や、政府系金融機関による低利融資、さらには大胆な税制優遇措置を検討している。これにより、民間企業が大規模なRAS施設を建設する際のリスクを軽減し、早期の事業立ち上げを支援する。

また、政府は全国数カ所に「陸上養殖産業化拠点」を整備する構想を持っている。ここでは、大学や研究機関、スタートアップ企業、大手メーカーが集結し、次世代の養殖技術を共同開発する。例えば、魚の成長を早めるゲノム編集技術や、環境負荷を低減する代替プロテインを用いた飼料の開発などが想定されている。こうした「場」を提供することで、関連産業の裾野を広げ、地域経済の活性化にも繋げていく狙いがある。
 

海外市場への展開と
国際競争力の強化

陸上養殖技術の確立は、国内供給の安定に留まらず、世界的なタンパク質需要の増大に応える輸出産業としての側面も持っている。特にアジアを中心とした新興国では、所得向上に伴い高品質な魚介類の需要が急増している。日本発の高度なRASシステムと、そこで生産されるブランド魚をセットで展開することで、海外市場のシェアを獲得する戦略だ。

政府は、こうした技術輸出を経済安全保障上の「不可欠性」を握るための重要なツールと位置づけている。日本の水処理技術や自動化技術が世界の養殖インフラのデファクトスタンダードになれば、日本の国際的な発言力は自ずと高まる。官民投資ロードマップには、2030年までの輸出目標額が明記される見通しであり、関連メーカーにとっては大きなビジネスチャンスとなるだろう。
 

獲る漁業から
管理し、創造する産業へ

「戦略17分野」の実行において、政府が最も重視しているのは、民間企業のマインドセットの変革である。内部留保や株主還元に偏りがちだった資金を、陸上養殖のような成長分野の設備投資や人的資本へと振り向けることが、日本経済全体の活力を取り戻す鍵となる。

陸上養殖は単なる魚の生産手段にとどまらず、環境負荷を最小限に抑えつつ高品質なタンパク質を確保する、持続可能な社会の実現に向けた象徴的な産業である。官民が工程表に沿って足並みを揃え、長期的かつ戦略的な投資を継続することで、日本は世界に先駆けて海洋環境に依存しない強靭な供給体制を構築することになる。

2026年は、日本の水産業が「獲る漁業」から「管理し、創造する産業」へと本格的に転換し、世界を牽引する第一歩を踏み出す歴史的な1年となるだろう。漁業者や投資家、そして地域社会が一体となり、この新たな産業基盤を育て上げることが、日本の食の基盤を揺るぎないものにする唯一の道である。

DATA

総合経済対策に盛り込むべき重点施策
戦略17分野における「主要な製品・技術等」


取材・文:フィッシャリージャーナル編集部

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