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インタビュー・コラム

漁業者向けアプリの企画者×漁師と変革を起こすデザイナーが語る! “第三者”の視点で共創する水産業

長期的に漁業活動を把握できる、漁業従事者向けのアプリ「MarineManager +reC.」 の企画者と、漁業にも精通するデザイナーが対談。制作やデザインについて語り合うなかでにじみ出てきたのは、漁業への深く熱い思いだ。

左)増元理名さん
「日本事務器株式会社」の事業戦略本部・バーチカルソリューション企画部に所属し、水産関連事業のマーケッターとして活躍中。日本水産学会の賛助会員、水産庁による「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」の水産女子メンバー。

右)安達日向子さん
東日本大震災の発生後、被災地の人々に寄り添ったドキュメンタリーやアート作品を制作。東北の若手漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」のクリエイティブディレクター、水産業に特化したクリエイティブチーム「さかなデザイン」の代表。

 

<目次>
1.親方と若手漁師の意思疎通の助けに
2.作り手側に必要なのは中庸の視点
3.次世代がワクワク感を持って漁業界に飛び込めるように
4.「MarineManager +reC.」の機能

 

親方と若手漁師の
意思疎通の助けに

ーー「MarineManager +reC.」(以下、プラスレック)では、どのようなことができるのでしょう?

<増元>
ざっくりとお伝えすると、「記録」「お知らせ」ができます。

「記録」には、漁業者間で情報共有をするための「共通記録」と、自身の振り返りに役立てるための「個人記録」があり、目的ごとに使い分けられます。

「お知らせ」は、リアクションボタンを活用したコミュニケーションツール。プラスレックを持っている人同士で、出漁連絡や会議開催便りなどを送受信できます。

漁法や魚種など、浜にあわせて設定した記録項目が出現するところが「記録」のポイントです。内容は、使ってからも少しずつ状況にあわせて変化させています。

<安達>
それぞれの漁法や魚種での作業内容をヒアリングして、設定していったということですよね。ということは、漁業者はセミオーダーメイドのようなアプリを使えるということですね。これはヤバい!(笑)

あと個人的には、沿岸漁業でもフル活用できるのがすごいと思いました。漁業をサポートするアプリは割とたくさん出ていますが、沿岸漁業で使える機能が一つにまとまっているアプリってほぼないんです。

<増元>
環境データとあわせて記録データを利活用し、出漁前の判断や漁獲量の見通しを立てている現場もありました。沿岸漁業での、王道の活用例の一つです。

また、記録した内容を技術継承に使えるのも、プラスレックの特徴です。具体的な数字から、ちょっとした気づきまで記録でき、さらに記録した内容を融合・精査できます。個々の「勘と経験」が具体的なデータになるので、次の世代は技術を習得しやすくなります

<安達>
データからの技術習得を得意とする若手漁師は、多くいると思います。親方から口頭で伝えられて理解しきれなかった内容があっても、データを見て「そういうことだったのか」と理解するパターンは多々あるはず。もはや若手漁師にとっては、データこそが重要なのかもしれません

作り手側に必要なのは
中庸の視点

ーープラスレックは、どのようにつくられたのでしょう?

<増元>
プラスレックは、漁師さんへのインタビューと仕事風景の観察を重ねながら開発したアプリです。その背景には、「プラスレックを実用性に富んだアプリにしたい」という思いがあります。

実際、仕事風景を目にしないと気がつけないことも多くありました。例えば漁船で網をひかせていただいた時は、大きく揺れる船上で、誰もがチームワークを発揮しながら忙しなく働いている状況に圧倒されて。そうした経験をふまえ、「いつでも直感的に操作できるアプリにしなくては」と考えました。

<安達>
私も制作にあたる時は、漁師をはじめとする関係者の話を傾聴しています。それと同じくらい重視しているのは、中庸の視点。いつでも中庸の視点で相手を理解したうえで、相手が伝えたいメッセージを制作物に反映するようにしています。なぜならモノをつくる人間は、メッセージの発信者と受け手をつなぐ“潤滑油”のような存在だから。作り手側がメッセージの発信者に没入しすぎて受け手の存在を忘れると、受け手側は置いてけぼりになり、メッセージをうまく受け取れません。

<増元>
中庸の視点や第三者視点は、プラスレックの企画・開発でも意識しました。

例えば作業項目の設定やUI/UX設計時は、さまざまな漁師さんに日頃の作業内容や考えをインタビューしました。「すごい! この方法は効率的だな」とグッとくることもありましたが、後で冷静に振り返り、他の漁師さんの作業内容や考えと共通する方法かどうか、慎重に見極めました。

プラスレックは誰にとっても使いやすいアプリにしたかったので、一つの手法に傾倒はせずに、さまざまなエッセンスを取り入れながらアプリを構築しています。

次世代がワクワク感を持って
漁業界に飛び込めるように

ーープラスレックのデザインは、親しみやすくポップ、かつシンプルですね。こうしたデザインを取り入れた理由を教えてください。

<増元>
漁業とITに関連する仕事をするなかで、どちらにも奥深さや難しさがあるなと感じています。

漁業に関しては、知識を積んだだけでは理解しきれない部分がたくさんありますし、ITに対しては「どのようなことが、どれほどできるのか?」といった疑問がつきまといます。どちらも専門性が高い業界なので、何も知らない人が踏み込んだり、双方を結びつけるのはハードルが高い行為。

プラスレックは、そうしたハードルを解消する存在にしたいと考え、「わかりやすさ」や「ワクワク感」に重きを置いたデザインを採用しました。私たちが目標にしている未来は、水産に関わる人たちがITを通して同じ方向を向くこと。また、次世代の人たちに、ワクワク感や夢を持って漁業の世界に飛び込んでほしいと思っています。

<安達>
今の世の中ではスピード感が重視されていて、1〜2年で結果を出すように求められる場合が多いです。ただ、そうした方針でつくられたものは“消費”されて、未来をつくる存在にはならないはず。プラスレックはそれらとは対極の存在で、100〜200年先を見据えて開発されたものなんだなと感じました。

なお、漁師と接していると「子や孫のために」「次世代のために」という言葉をよく耳にします。私自身、彼らの言葉を聞いて忍耐強く待つ姿勢を学びましたし、つい結果を求めてしまう時も、立ち止まって冷静に考えるようになりました。

ーー最後に、漁業への思いや今後の展望をお聞かせください。

<安達>
水産業は、美しくてカッコいい産業です。そして昨今、「古いルールはなくして、業界を刷新するぞ!」という気運も高まっています。そうした気運を味方に、有志とともに水産業界で新しい価値を生み出すことができたと思っていますが、やはりまだ課題はある。

さまざまな立場の人たちがフラットに意見を交わせる場がなく、それが適切な資源管理をはじめ、重要なタスクがなかなか進まない要因になっている気がします。フィッシャーマン・ジャパンとしては今後、健全なシフトチェンジを目指し、誰もが臆せず意見を交わせる場を設けていきたいですね。

<増元>
漁業者も、漁業を支える職員の方々も本当にカッコいいですよね。私にとって皆さんの存在は、ひたむきに仕事に向かうための原動力になっています。展望として思い描いているのは、アナログとデジタルの絶妙なかけ合わせです。そうすることで、漁師の勘やコツをデータで裏付けたり、支えたりすることが可能になります。

また、漁業は社会全体や世界とも深くつながっている産業。そうした“つながり”を意識してプラスレックをブラッシュアップし、最終的には美しい未来に貢献するアプリにしたいです。

 

+ reC.の
機能をご紹介!

メリット①
記録と振り返りができる


それぞれの漁法や魚種、地域、浜にあわせて記録項目を設定できるので、日々の作業内容を違和感なく記録できる。また、出航時間や漁獲の開始・終了時間、漁獲した地点、さらには頭にふと浮かんだアイディアなども丸ごと記録可能。翌年以降はこれらのデータを参考に、最適な漁場や漁を始めるのに適したタイミングを割り出せるように。


メリット②
いつでも手軽にコミュニケーション!


あらゆる通達の確認・管理や、仲間とのコミュニケーションが可能。「送信権限」などの機能やリアクションボタンの活用により、瞬時に通達やメッセージにリアクションできる。出漁確認、漁の様子も手元で逐一共有。

問い合わせ

日本事務器株式会社
✉️:mmplusrec-support-gr@njc.co.jp


写真・文:緒方よしこ

FISHERY JOURNAL vol.4(2025年夏号)より転載

Sponsored by 日本事務器株式会社

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