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三菱総研 洋上風力と漁業の持続的な共存に向けた「11の提案」を公表

三菱総合研究所は、洋上風力発電と漁業の持続的な共存に向けた具体的指針「洋上風力と漁業の共創に向けた11の提案(第2版)」を発表した。海域の先行利用者である漁業者と発電事業者が、長期的かつ建設的な関係性を構築するための戦略的な対話の重要性を提言している。

メイン画像:銚子漁港(千葉県銚子市)

<目次>
1.海域の持続的なマルチユースを 実現する対話の必要性
2.科学的知見の共有による 不確実性の払拭と信頼構築
3.水産業の活性化を支える 新たなビジネスモデルの構築
4.海域利用を総合的に判断できる 人材の育成と活用
5.日本型洋上風力モデルの 確立に向けた戦略的提言

 

海域の持続的なマルチユースを
実現する対話の必要性


三菱総合研究所「洋上風力と漁業の未来共創に向けた11の提案(第2版)」

洋上風力発電の導入に向けての動きが全国各地で加速するなか、海域という公共財をどのように共有すべきかという議論がかつてないほど重要になっている。三菱総合研究所がまとめたレポートは、発電事業を単なる電力供給手段と捉えるのではなく、地域に根差した水産業との「共創」のプロセスとして再定義している

日本の海域利用において最も大きな影響力を持つ漁業者との合意形成は、プロジェクトの成否を分ける最大の要因であることは周知の通りである。しかし、これまでの対話は補償や一時的な協力金の議論に終始しがちであった。

今回のレポートは、2025年に発表された初版に、海底ケーブル周辺での漁業共生に関する新たな視点を加えたもので、洋上風力発電と漁業が海域の環境情報を共有し、互いの事業の持続可能性を高め合うための11の具体的なアクションを提示している。

特に、自治体や事業者が担うべき役割を明確にし、長期的かつ建設的な関係性を構築するための「対話の入り口」を整理した点に大きな特徴がある
 

科学的知見の共有による
不確実性の払拭と信頼構築



三菱総合研究所「洋上風力と漁業の未来共創に向けた11の提案(第2版)」

洋上風力発電が漁場環境や海洋生態系に与える影響については、未だ科学的なデータが不足している領域も多い。この情報の非対称性が、漁業関係者の不安を招く一因となっている。レポートでは、国や学術界、事業者が連携して、発電設備が魚類や底生生物に与える影響、さらには「漁具の安全性」に関するデータを蓄積・検証し、開かれた形で共有することを強く提案している。

特に第2版で新たに追加された視点は、海底ケーブルと漁業の共生である。ケーブル敷設区域における操業制限の緩和や、電磁界が魚類に与える影響のモニタリングなど、より実務的な論点に踏み込んでいる。事業者は、建設時のみならず、運用・保守の長期にわたって科学的モニタリングを継続し、その結果を漁業者と誠実に共有する責任がある。

こうした透明性の高いプロセスが、単なる形式的な説明会を超えた、真の信頼関係を育む基盤となるのである。自治体担当者にとっても、こうした客観的なデータに基づいた議論の場を設定することは、地域合意を円滑に進める上で極めて有効な手段となるだろう。
 

水産業の活性化を支える
新たなビジネスモデルの構築


三菱総合研究所「洋上風力と漁業の未来共創に向けた11の提案(第2版)」

洋上風力発電の導入を、衰退が危惧される日本の水産業を再興させるきっかけとして捉え直す視点も、レポートの重要な論点である。

具体的には、風車基礎を魚礁として活用する「設備のマッチング」や、保守・管理業務(O&M)への漁業者の参画などが提案されている。風力発電事業者が持つ海洋観測データを漁業者に提供し、スマート漁業の推進を支援するといった、デジタル技術を活用した連携も期待される。

さらに、レポートでは、漁業者が安心して事業を継続できるよう、広域的な基金の活用についても議論を深めるべきだとしている。特に操業範囲が広い沖合漁業においては、特定の海域での発電事業が及ぼす影響が広範囲にわたる可能性がある。

これに対し、発電収益の一部を地域全体の水産業振興や、次世代の漁業担い手育成に充てる仕組みを構築することで、地域全体が潤う好循環を生み出すことができる。これは、事業者が提示する一時的な対価ではなく、数十年にわたる事業期間を通じて地域社会の一員として貢献し続けるという姿勢の現れでもある。
 

海域利用を総合的に判断できる
人材の育成と活用

洋上風力と漁業の共生を実効性のあるものにするためには、両分野に精通し、中立的な立場で海域利用の最適解を導き出せる人材が不可欠である。現状、風力発電と漁業はそれぞれの制度や慣習のなかで議論が進められることが多く、総合的な視点を持つ人材が不足している。

今回のレポートは、産官学が連携し、海域利用の在り方を多角的に判断できるコーディネーターの育成を急ぐべきだと提言している。

こうした人材は、特に自治体が主導する法定協議会や、地域での合意形成の場で重要な役割を果たす。発電事業の技術的側面だけでなく、地域の文化や漁業の歴史を尊重しながら、双方にメリットがある提案を行える能力が求められる。

また、学術界も単なる研究に留まらず、社会実装に向けたアドバイザーとしての役割を強化する必要がある。事業者はこうした専門性の高い人材と連携することで、プロジェクトの不確実性を下げ、よりスムーズな開発へとつなげることができる。
 

日本型洋上風力モデルの
確立に向けた戦略的提言


出典:水産庁 令和6年度水産白書概要

最後に、レポートは日本における洋上風力発電が、世界に類を見ない「漁業共生型」の産業モデルとして確立されることへの期待を寄せている。欧州の先行事例をそのまま導入するのではなく、日本の多様な漁法や地域性に合わせた独自の共生策を積み重ねることが、結果として日本の洋上風力産業の国際競争力にもつながる。

11の提案は、決して固定的なものではなく、技術革新や社会情勢の変化に応じて絶えず更新されるべきものである。事業者は、レポートが提示する論点を自社の事業計画に積極的に取り入れ、単なる「海域の借用者」ではなく、地域の「パートナー」としての地位を確立することが求められる。自治体もまた、国の指針を待つだけでなく、地域独自の共生モデルを積極的に発信していくべきである。

三菱総合研究所の提言は、洋上風力発電をめぐる議論の力点を、従来の「対立か妥協か」という二元論から、「いかにして共に価値を創造するか」という建設的な方向へと転換させるものである。今回のレポートを対話の指針として活用し、海域の先行利用者である漁業者と発電事業者の共生の道を切り拓くことが、いままさに求められている。
 

DATA

三菱総合研究所「洋上風力と漁業の未来共創に向けた11の提案(第2版)」


取材・文:フィッシャリージャーナル編集部

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