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高市政権の成長戦略、陸上養殖に2040年度まで2.9兆円の官民投資

政府が6月24日に公表した戦略17分野の工程表案において、陸上養殖には2040年度までに2.9兆円の官民投資が見込まれている。日本の強みを活かした陸上養殖システムの国内外への展開、産業が目指すべき姿、安定生産に向けた技術的課題や具体的な供給体制構築への政策パッケージについて解説する。

画像:©Shutterstock/AI Generator

<目次>
1.成長力を高める責任ある積極財政と投資枠の創設
2.国内外での安定供給と世界シェア3割の獲得を目指す
3.2.9兆円の官民投資で47.1兆円の経済波及効果
4.国内外の環境変化に左右されない水産物供給体制の確立を

 

成長力を高める
責任ある積極財政と投資枠の創設

政府は6月24日、経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会議において、高市政権が掲げる戦略17分野の官民投資ロードマップ案を示した。この計画は、研究開発や設備投資といった民間国内投資を誘発することを目的としており、全体の重複を排除した官民投資額は2040年度までの累計で370兆円超を想定している。

政権は行き過ぎた緊縮志向と投資不足の流れを断ち切るため、通常の歳出とは別に予見可能性を持って実施できる「新たな投資枠」を創設する方針を打ち出した。このうち、経済安全保障上、特に重要な分野の投資などについては、複数年度で財源を確保した上で、別枠で管理する財政運営の手法が採られる。

この財政運営においては、名目の経済規模の拡大に見合った予算編成への見直しが進められており、十分な経済成長が実現すれば債務残高対GDP比を安定的に低下させることが可能であると試算されている。

今回の投資ロードマップ案は、当該分野に見識のある学者やシンクタンク、企業関係者などによる各ワーキンググループでの議論を踏まえて作成された。ボトルネックの解消とさらなる投資を促すアクセラレーターを念頭に、我が国としての独自の強みを活かす方針が定められている。
 

国内外での安定供給と
世界シェア3割の獲得を目指す

戦略17分野の官民投資ロードマップ案(出典 内閣府)

現在、世界的に注目されている閉鎖循環式陸上養殖(RAS)は、国際的にさまざまな技術開発が進行しているものの、安定生産が確立されておらず総じて実証フェーズにある。

こうしたなか、日本では水処理・浄化技術などの強みを有する技術や、最先端のゲノム関連技術を用いた品種開発、人工種苗の生産技術やこれを含めた完全養殖技術などの実証および商業化に向けた事業がスタートアップを中心に展開されている。さらに、豊富な水資源やITの活用により、魚種や立地特性に合わせた多様な陸上養殖が展開されているのが現状である。

一方、これらを取り巻く環境としては、世界的な人口増加や経済発展により水産物の需要が拡大しているが、海面養殖に適した地域が限られていることや気候変動リスクなどにより、生産拡大には制約が生じている。日本国内においても、海洋環境の変化に伴い漁獲量や養殖生産量が減少傾向にあり、他国との水産資源利用の競合も顕在化している。養殖に不可欠な種苗や飼料の多くが天然資源や輸入に依存していることも課題である。

このような背景から、日本が目指すべき姿として、2030年にかけて日本ならではの多様な魚種での陸上養殖を国内展開することが掲げられている

同時に、海外市場に対してモジュール化したシステムを展開することで、新たな水産物市場を創出し、2040年にかけて世界市場におけるシェア3割の獲得を目指す方針である。これにより、国内外の食料安全保障の確保への貢献と、環境に配慮した持続可能な食料生産の実現を目指していく 。
 

2.9兆円の官民投資で
47.1兆円の経済波及効果

戦略17分野の官民投資ロードマップ案(出典 内閣府)

日本における陸上養殖分野の勝ち筋は、スタートアップの技術をはじめとした水処理・浄化技術、複数魚種の種苗生産技術、最先端ゲノム関連技術による育種、藻類発酵技術を用いた必須栄養素の培養技術など、多岐にわたる強みを組み合わせる点にある。

これらにより、多様な魚種の種苗や飼料の内製化を進めながら実証フェーズを乗り越え、用途や規模に応じた安定生産が可能なモジュールをつくり出し、システムとして商品化して国内に展開していく。

国内での成功を踏まえたあとは、生鮮野菜やたんぱく質の安定供給が課題となっている世界各地の社会課題解決に向け、安定生産モジュールと品種改良した種苗や飼料をパッケージとして国外へ展開する。日本食や加工技術といった強みも一体化させ、世界の水産物市場を獲得していく戦略である。

このために国内で構築すべき機能として、水温維持のコスト削減や歩留まり向上などのモジュール研究開発機能、再現性の確認機能、種苗・飼料の供給機能、AIによるビッグデータ集約を行うデータプラットフォーム機能などを挙げている。

これらの一連の施策を推進するため、陸上養殖分野においては2040年度までに2.9兆円の官民投資額が想定されている。この投資内容には、モジュールや種苗・飼料の研究開発、大規模実証、インフラ調査、データプラットフォームの構築などが含まれる。また、この投資による定量的インパクトとして、2040年度までで47.1兆円に上る経済波及効果が想定されており、地域経済の活性化や雇用の創出に対しても高い効果が期待されている。
 

国内外の環境変化に左右されない
水産物供給体制の確立を

戦略17分野の官民投資ロードマップ案(出典 内閣府)

陸上養殖の産業化を促進するうえでは、複数のリソース制約と不確実性の要因が存在する。リソース面では、水質管理と魚の生理・生態の双方の知見を有するオペレーション人材や国際ビジネス人材など、幅広い人材層における労働力が不足している。また、インフラ面においては水・種苗・飼料・電力の確保や、加工流通といったサプライチェーンの確保が制約となっている。

不確実性の面では、安定生産技術が未確立であることや、魚の生育特性上、収益化までに長時間を要すること、さらには養殖資材やエネルギーのコスト上昇によるキャッシュフローの不安定化が課題として挙げられている。

政府はこれらのボトルネックを解消するため、包括的な政策パッケージを講じる方針である。国内投資支援としては、モジュール化に向けた複数年の実証支援やフィージビリティスタディの実施、種苗・飼料の生産拠点整備に対する資金調達機能の強化、専門実践・特定一般教育訓練給付金の活用を視野に入れた人材養成プログラムの支援が盛り込まれている。

需要創出および社会実装支援の観点からは、加工・流通・小売・外食などの最終商品を取り扱う企業との継続取引やパートナーシップの促進、事前の取り決めに従い購入するオフテイク購買の推進が図られる。

スタートアップの育成に向けては、大規模実証の支援や事業連携コーディネーターの確保、売り上げ計上が可能な委託契約の形で実環境における試験運用までを行う「戦略製品・技術等政府実装加速化プログラム」の活用などが検討されている。さらに国際連携においては、経済連携協定と連動した途上国へのモジュール展開や、日本主導による国際標準の獲得に向けた検討が進められる予定である。

今後は、政府による複数年の実証支援やリスクマネジメントの強化を呼び水として、民間資金のさらなる流入を促すことが鍵となる。技術の標準化とサプライチェーンの強靭化を一気通貫で進め、国内外の環境変化に左右されない持続可能な「次世代の水産物供給体制」を官民一体で確立していくことが求められる

DATA

経済財政諮問会議(令和8年第8回)・日本成長戦略会議(第5回)


取材・文/フィッシャリージャーナル編集部

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