日本で養殖漁業が進まない理由は食文化?ながさき一生氏が語る養殖ビジネス成功のカギ
2024/09/19
世界で注目されている養殖漁業。日本で浸透しないのには理由があった。日本の養殖漁業のホントのところをおさかなコーディネータ ながさき一生さんに聞いてみた。
1.日本の養殖は世界から遅れている?
2.日本で養殖はどうして普及しない?
3.養殖ビジネスで成功するには?
4.日本の養殖は世界のトップを目指せる?
日本の養殖は
世界から遅れてる?
食文化が違うだけで遅れてはいない
確かに世界の養殖業生産は水生動物生産全体の51%で、日本国内の養殖量は23%程度。こうやって数字で見ると遅れているように見えますが、実際は中身が全然違います。
日本の養殖といえば、ブリやマダイといった海水魚。世界の養殖といえば、コイやティラピアといった淡水魚。単に食文化が違うというだけで、どっちが優れていて、どっちが劣っているという問題じゃないんです。突然、「今日の晩御飯、コイだから」と言われても、素直に受け入れられますか? 難しいですよね。
冷凍技術が進んでどこでも魚が食べられるようになったとはいえ、世界では淡水魚が主流で魚食の性質が違うんです。
(出典:世界水産・養殖白書2024)
(参考:令和4年漁業・養殖業生産統計)
※グラフは養殖魚種別収穫量(海面+内水面養殖)から、海藻類、貝類を除いたデータを元に編集部にて作成。
日本で養殖は
どうして普及しない?
養殖の魚種だけでは日本人を満足させられない
養殖漁業が伸びないというよりも日本で食べられている魚種が多いだけです。日本には3400種類もの魚がいるのですが、そのうち養殖できるようになった魚種は24種程度。つまり、日本の食卓には、天然漁業の魚がないと満足できないわけです。
とはいえ、養殖の最大のメリットは、何と言っても供給量と品質の安定です。つまり人間がコントロールしやすいわけです。人口減少が進む中、今後必要になってくる技術なのは間違いありません。できる選択肢が増えることは人類にとって有益でしかないじゃないですか。養殖漁業には、まだまだできることがあると思います。
養殖ビジネスで成功するには?
海外販売にも注目してこそ、勝機がある
鮮魚流通が主体の日本の流通の仕組みとして、入荷する魚の量が増えるほど、値段が下がってしまいます。一方で海外に目を向ければ、日本の高鮮度の魚は海外ではなかなか手に入らない高級品。需要も高いため、値段が張っても欲しがる国は多く存在します。
実際に、養殖で成功しているパターンもたくさんあります。例えばブリはアメリカでは大人気。今や輸出品目3位になる程です。しかも既存の養殖産業は中小企業がほとんど。初期投資はかなりかかりますが、まだまだ伸びしろがあります。
■令和5年度 水産物輸出量 品目内訳
(出典:令和5年度 水産白書)
日本の養殖は
世界のトップを目指せる?
海外のマネではなく日本発の産業誕生がカギ
「海外の養殖に追いつかなければ」「ノルウェーに追いつかなければ」という言葉にとらわれすぎだと思うんです。日本が世界の養殖で勝ち残るカギは、日本発の養殖を誕生させることだと思います。
日本にもともとあって海外にない水産資源なんていくらでもあります。今まで日本の水産業がやってきたことを無視して、海外の技術を追いかけるのでは、所詮マネゴト。2番手として終わるだけです。しっかり日本の水産業がこれまで積み上げてきたものをを見直すことが必要だと思います。
そのためにも、漁師ばかりではなく、流通業者や消費者も一緒になって知識や資本をお互いにどんどん取り入れることが必要です。他業界では当たり前でも、水産業界では全く知られていないものがたくさんあります。お互いの知識や経験を取り入れることで次の道が開いていくと考えています。
教えてくれた人
おさかなコーディネータ
一般社団法人さかなの会 理事長
ながさき一生さん
1984年、新潟県糸魚川市筒石生まれ。漁師の家庭で生まれ、東京海洋大学で魚のブランドや知的財産の研究を行う。「さかなの会」を主宰し、ドラマ「ファーストペンギン!」の漁業監修を手掛ける。
文:守雅彦
FISHERY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載