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インタビュー・コラム

インドネシアでマングローブを植林。ブルーカーボン生態系の復活を目指して

海を舞台に、再生可能エネルギーの創出とあわせて、生態系の保全や漁場の再生を目指す取り組みが各地で進められている。風力発電メディアWIND JOURNALとの共同企画「エネルギーと海の再生」。第1回目は大手海運会社のグローバルな取り組みを取材した。

 

エビの養殖で荒廃した
マングローブを保全・再生

140年の歴史を持つ大手海運会社の商船三井は、パートナー企業とともにインドネシア南スマトラ州でマングローブを保全・再生する「ブルーカーボン・プロジェクト」に取り組んでいる。

ブルーカーボンとは、海洋生態系によって取り込まれた炭素のことだ。植物は光合成によって二酸化炭素(CO2)を吸収するが、マングローブは、熱帯林と比べてより多くのCO2を吸収し、炭素として貯留できるとされる。また、台風などによる波風から沿岸を守る防災林としての機能、水質や土壌の浄化、生態系の回復・保全といった効果も期待されている。


マングローブは波風から沿岸を守り、生態系を保護する役割を持つ。

カーボンリムーバル事業チームの引地慶多氏は、ブルーカーボン・プロジェクトに取り組んだきっかけについて、「インドネシアではエビの養殖が盛んですが、養殖池の開拓のためにマングローブが大量に伐採されてきたという経緯があります。当社は、海運会社として海に携わってきた歴史を持つことから、海と人をつなぐ役割を果たしたいと考えて、プロジェクトへ参画しました」と説明する。

プロジェクトでは、2022年から30年間にわたって、マングローブの再生・保全を実施する。プロジェクトのパートナーは、インドネシアでマングローブ林保全の実績を持つ企業「ワイエルフォレスト」だ。カーボンリムーバル事業チームのメンバーは、定期的に現地に足を運び、マングローブの保全や植林に汗を流している。

「雨季の間にマングローブの種子を採取して、潮が引いているときに地元の方々が手作業で1本ずつ植えます。スマトラ州の雨季は、例年は10月から3月の間ですが、年によっては長引いたり早く終わったりすることもあります。自然を相手にした作業なので、なかなか計画通りにはいきません。常に臨機応変な対応が求められます」と同チームの池永邦彦氏は話す。
 


荒廃地にマングローブを植林する。

 

ネットゼロ達成に不可欠なネガティブ・エミッション

商船三井グループは、経営計画「BLUE ACTION 2035」において環境戦略を主要戦略の1つとして位置付け、昨年4月に「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」を策定した。050年ネットゼロ達成を目標に掲げている。2
 
「温室効果ガスの排出を正味ゼロ」にするネットゼロを達成するには、CO2排出量の削減はもちろんのこと、大気中のCO2を除去することも重要だと考えられている。植物がCO2を吸収・貯留する働きなどを活用して、大気中のCO2を除去することを「ネガティブ・エミッション」という。海洋生態系によって貯留された炭素であるブルーカーボンも、ネガティブ・エミッションの1つである。


長いマングローブの種子。真下に落ち、地面に刺さって発芽する。

「ブルーカーボン・プロジェクトでは、マングローブの減少によるCO2排出を回避し、荒廃地への植林によるCO2の吸収・貯留によって、CO2の排出回避・吸収固定を目指しています」と引地氏は強調する。「国内でも、ブルーカーボンによる吸収量を算定し、認証する仕組みとして『Jブルークレジット』という制度があります。当社は、これからも海洋の生態系の回復を通じて、海が豊かになる取り組みに力を入れていきたいと考えています」と池永氏は力を込める。
 

ネットゼロの実現に向けて
地球環境への負荷低減へ

 
商船三井は、「商船三井グループ環境ビジョン2.2」に基づいて、海上で再生可能エネルギーを創出する事業にも力を入れている。その中では洋上風力発電のバリューチェーンにおいて幅広いサービスの提供に取り組んでいる。今年1月には風力発電メンテナンス国内最大手の北拓と資本提携し、北拓の豊富な実績とノウハウを活かして洋上風力発電事業の拡充を目指す。


8MWの洋上風車を模した日本初のトレーニング設備。高さは23mだ。

商船三井グループは、ネットゼロの実現に向けて、幅広いステークホルダーの信頼を得ながら、気候変動対策だけでなく自然資本・生物多様性の保護といったさまざまな地球環境への負荷低減をグループ一丸となって進めていく考えだ。
 

お話を聞いた人

株式会社 商船三井
カーボンソリューション事業群
カーボンソリューション事業開発ユニット
カーボンリムーバル事業チーム

引地慶多さん(右)
池永邦彦さん(左)


取材・文:山下幸恵(office SOTO)

FISHERY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載

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