“黒海苔”の陸上養殖での量産に成功! 日本の食文化を支える海苔の不足に対応する新たな量産技術
2025/04/16

近年、地球温暖化や海水環境の悪化、生産者の減少などを原因に最盛期に比べ海苔の生産量は半分以下にまで落ち込んでいる。今回、合同会社シーベジタブルは、おにぎり用の海苔として広く流通する“黒海苔”の陸上での量産に成功した。
生産量は最盛期の半分以下
“美味しい海苔”を未来につなぐ量産技術
近年、地球温暖化による海水温の上昇や海水環境の悪化、生産者の減少・高齢化の影響など、最盛期の2000年代初頭に比べ、海苔の生産量は半分以下にまで落ち込んでいる。コンビニ各社の棚にも、海苔が巻かれていないおにぎりが増えつつある。
そうした背景を受け、合同会社シーベジタブルは、国内でおにぎり用の海苔として広く流通している「黒海苔(学名「スサビノリ」)」の陸上での量産技術の確立に取り組み、成功したことを発表した。
今回の成果について、有明海での海面養殖を推進した海苔研究者である佐賀大学農学部の川村教授は「世界初の快挙であるとともに、この量産技術は現在の生産不足の解消にも大いに貢献する」と評価している。
今後、シーベジタブルは各地で黒海苔の生産量減少に苦慮する漁業者や、各種水産物の水揚げ減少に困っている生産者と協働していくことを検討しているという。
日本の食文化に欠かせない“おいしい海苔”を未来につなぐ、その量産と産業全体の発展を目指す、シーベジタブルの挑戦に今後も注目したい。
以下、合同会社シーベジタブルのプレスリリースより
生産背景
日本の伝統食文化を支えてきた海苔の不足
2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、古くから日本の食文化を支えてきた伝統的食材である「海苔」は世界から注目が集まっています。海苔の原料となる黒海苔は、古くから日本各地の沿岸部で海面養殖により供給され、日本の食文化を支えてきました。
しかし、近年、地球温暖化による海水温の上昇や海水環境の悪化、生産者の減少・高齢化の影響で、最盛期の2000年代初頭に比べ、海苔の生産量は半分以下にまで落ち込んでいます。さらに、生産量の低下により、かつては1枚あたり約10円で推移していた海苔の平均単価が、2024年度の入札では30円前後になるという危機的状況にあります。
出典:海苔産業情報センターデータをもとに川村招聘教授作成
国内では年間80億枚の需要に対し、国産供給は6割程度になったことで、コンビニの主力商品であるおにぎりにおいても、海苔が巻かれていないおにぎりが増加しています。
一方で、日本の海苔生産は従来、海面での生産方法しか確立されていませんでしたが、温暖化や食害、さらには海苔の品質低下を招く貧栄養化(*1)の影響により、海面養殖を回復させるのは難しくなりつつあります。そこで、海面養殖に代わる手段として、商業的に成立可能な陸上養殖モデルの構築が急務です。
*1:貧栄養化:貧栄養化:水中に溶けている栄養塩が少なすぎるため、生物の生産性が低くなること。貧栄養化が進むと、漁獲量が低下したり海苔の品質低下を招く
シーベジタブルの陸上養殖によってできた板海苔は、すべて一番摘みの海苔となる。
研究内容・成果
地下海水を使用した黒海苔の陸上養殖の量産を実現
シーベジタブルは、2016年に世界初となる地下海水を活用したすじ青のりの陸上養殖による量産を実現しました。地下海水は、異物混入が少なく、清浄で温度も安定しているため、北は岩手、南は熊本まで全国に拠点を設け、通年で安定した生産を可能にしています。これまでに、すじ青のりやはばのり、あつばアオサなどの海藻の、高品質な安定生産を実現しています。
シーベジタブルは、近年の黒海苔の生産量減少の状況に課題感を感じ、これまでに培った技術・ノウハウ・知見を活かして、2018年から黒海苔の研究開発を進め、2024年には35kg(板海苔 1万枚以上)、2025年2月時点で100kg(板海苔 3万枚相当)の陸上での量産技術を確立しました。
黒海苔の生産技術のポイント
・黒海苔(学名「スサビノリ」)の高成長種苗の選抜に成功
・自社ラボで高品質かつ安定した種苗の量産技術を確立
・2025年2月時点で、乾燥重量100kg(板海苔 約3万枚分)の生産に成功
・陸上養殖では全て量が最初に摘み取る「一番摘み海苔」となるため、高品質な製品を安定して生産することができる
・栄養塩濃度の減少によって品質が低下している海面養殖とは異なり、陸上養殖では栄養塩濃度をコントロールできるため、高品質な製品を安定して生産することができる
・地下海水を活用するため、夾雑物(異物)が極めて少ない
今後の取り組み
今後は、6年以上の年月をかけた研究開発によって得られた技術を、漁業者や事業者のみなさんとの協働モデルによって広く展開していく予定です。また、黒海苔などに関する養殖技術について、複数の特許取得済、および他特許についても多数出願中です。これらの特許技術は、生産効率の向上や高品質かつ安定供給に貢献します。そして地域に就業機会を生み、産業全体の発展と日本の食文化を守り育んでいくことを目指してまいります。
日本の伝統食文化を支えてきた海苔の不足という課題を解決するためには、年間数億枚規模の生産を実現できる施設や、生産・流通モデルの確立が必要です。シーベジタブルでは、漁協・自治体・企業などとの協業を進めていきます。ご関心をお持ちいただいた方は、以下よりお問い合わせください。
合同会社シーベジタブル
研究者から料理人まで各分野のスペシャリストが集まり、全国各地で海藻の基礎研究・種苗生産・陸上/海面栽培、さらには料理開発まで一貫した事業を行う。海藻が激減する海の生態系を豊かに育みながら、社内外の料理人たちと新たな海藻の食文化をつくることにも取り組んでいる。
【会社概要】
社名:合同会社シーベジタブル
所在地:高知県安芸市穴内乙688-9
代表者:蜂谷 潤、友廣 裕一
設立:2016年04月
業種:水産・農林業