【Jブルークレジット認証事例】海を守り、漁業を守る三浦半島・城ヶ島での挑戦
2026/10/13
磯焼けによって藻場が衰退し、磯根資源にも影響が及んできたという城ヶ島の海。危機感を抱いた漁業者が15年にわたり藻場再生に取り組み、その活動がJブルークレジット認証へとつながった。海を守り、漁業を守る現場の挑戦とは。
メイン画像:15年にわたり藻場再生を率いる石橋英樹支所長
1.磯焼けが突きつけた、漁業の危機
2.藻場再生がJブルークレジット認証へ
3.海を地域で支え、次の世代につなぐ
磯焼けが突きつけた、
漁業の危機
神奈川県三浦市の沖合に浮かぶ城ヶ島。地道な藻場再生活動が続けられ、2026年には33.5トンのJブルークレジットとして認証されたエリアだ。「海を守ること」とは、そのまま「漁業を続けるためにできること」なのだと、藻場再生を行う三和漁業協同組合城ヶ島支所の支所長、石橋英樹さんは話す。
「15年くらい前から磯焼けが起きて、一時期はカジメが全くゼロになりました。その危機感から藻場再生をするようになりました。今やらないと次はない、もし本当に何もなくなったら次また生えてくるかもわからない。そんな瀬戸際の状況だと思ったんです」
かつて冬場は10度前後まで下がっていた海水温も、いまでは14〜15度程度までしか下がらず、夏には30度近くに達することもあるという。磯焼けでカジメが消えれば、アワビやサザエ、伊勢エビ、テングサといった磯根資源も細っていく。つまり、漁業の土台そのものが崩れるということだ。実際、城ヶ島の漁業収入は最盛期の5分の1ほどまで落ち込んだ時期もあったという。
父も祖父も漁師という家に生まれたという石橋さん。かつては地元の水族館で働き、魚の飼育のほか、流通や海洋資源に関わる業務にも従事。その後、35歳で家業に戻り、漁師として20年。海の変化を生態系の異変、そして生活の危機として捉え、藻場を再生するなど地道な活動を続けてきた。
もっとも、最初から周囲の理解があったわけではない。食害魚の駆除や藻場保全に取り組み始めた当初は、漁業組合内でも懐疑や反発も少なくなかったという。
「活動を始めた当初は、周りの漁師も親の世代がほとんどで『そんなことやったって無理だよ』とか『やったところでどうなるわけねえよ』という反対もありました。でも、活動を続けるうちに実際にカジメが生えてきて、だんだんと納得してくれる人も増えてきたと思います」
藻場再生が
Jブルークレジット認証へ

藻場が支える城ヶ島の磯根資源、伊勢エビやアワビ
以来、早熟性カジメの設置、ウニや植食魚の駆除、母藻の投入、アオリイカの産卵床づくり、藻場のモニタリングなど、多面的な取り組みを実践。
アオリイカの産卵床には、京急電鉄の社有林や鉄道敷地内の間伐材も活用するなど(京急電鉄との連携は2014年から継続。2025年には74基の間伐材を海中に設置、実際にアオリイカの産卵も確認されている)、石橋さんがサラリーマン時代から培ってきた経験やつながりも生かしながら、地域や企業との連携も強めてきた。
Jブルークレジット認証は、そんな活動の蓄積から繋がった成果だ。きっかけは、神奈川県による実証事業。藻場のCO2吸収量を測るには、通常は潜水士による調査が必要で、時間も費用もかかる。そこで県は、県内ベンチャーのBlueArchや研究機関と連携し、自律航行する水中ドローンと海藻種別判定AIを活用した新しいモニタリング手法を開発。
その対象海域の一つとして城ヶ島が選ばれ、三和漁業協同組合城ヶ島支所が長年続けてきた藻場保全活動が、第三者審査を経て33.5トンのCO2吸収量として認証された。国内で初めて、この手法によるJブルークレジット認証が認められた事例でもある。認証後のクレジットは県内事業者の3社が購入。売上は330万円にのぼった。

漁協の直売所は、海の恵みを地域へ届ける拠点だ
「こうして実際に買ってくれる企業さんが出てきたことで、活動がちゃんと外に伝わるんだと感じました。クレジットは収益になるだけじゃなくて、海を守る取り組みを知ってもらう機会にもなる。次の協力につなげていく入口にもなればと思っています」
海を地域で支え、
次の世代につなぐ
Jブルークレジットの認証によって、長年続けてきた藻場保全を、次の活動資金へとつなげていく可能性が示された。ただし石橋さんは、この取り組みを漁業者だけの仕事として今後も完結させるつもりはないという。海の危機を地域全体で引き受ける形に変えていかなければ、持続は難しいと考えている。

FABOと進める市民参加型の藻場保全活動
その考えを実際の形にしてきたのが、ボランティア団体「FABO」との連携だ。市民参加型の「城ヶ島クラス」では、カジメの植え付け、アオリイカの産卵床づくり、サザエの稚貝放流などを通じて、海の現状を自分の手で知ってもらう機会をつくってきた。漁師が海で起きていることを語り、市民が実際に手を動かす。その積み重ねによって、藻場保全が“地域で支える活動”へと少しずつ姿を変えてきたのである
「漁師の仕事って、昔は魚を獲っていればそれでよかったんですが、今は海そのものを守ることをしないと、魚も獲れなくなり、漁師という職業自体が成り立たなくなってしまう。しかし、漁師は一日休めば収入が減る個人事業主ですし、高齢化も進んでいて、あと5年、10年も経てば、今の漁師はほとんどいなくなってしまうという現状が目の前にきています。漁師あっての組合なので、次のなり手世代にどうつないでいくかが一番の課題です。だからこそ、一般の人やボランティア、企業と協力していくことで、海を守る活動を広げていきたいと考えているんです」
現在、組合員は16人。そのうち約3分の1が70歳以上で、後継者不足は深刻だ。藻場を守ることも、組合を残すことも、もはや別々の課題ではない。海が痩せれば漁師の仕事が細り、漁師が減れば海を手入れする人もいなくなる。石橋さんが向き合っているのは、そうした負の循環そのものだ。

伐採木を活用し、アオリイカの産卵床を海中へ設置
そんな中、石橋さんたちは、城ヶ島の東側の湾内をアマモの苗床として育て、将来的には三浦半島の他地域へ供給していく構想も進めている。
アマモはアサリやエビ、アオリイカなど多くの生きものの育つ場になる一方、食害を受けやすく、ただ植えるだけでは増えない。そのため囲い網を設けながら保全・育成し、城ヶ島を“苗の供給拠点”のような場所にし、横須賀、逗子、葉山、鎌倉など三浦半島の他地域へ供給していく構想も視野に入れているという。
また、ブルーカーボン関連のメディア企画とも連携し、4市1町の子どもたちが参加する植え付けの場を創出するなど、継続的なプロジェクトが行われている。
そうした取り組みの中で、石橋さんが確かな手応えとして挙げるのが、海に関わる人の変化である。藻場を守る活動は、もはや漁業者だけのものではない。浜に来た子どもたちや地域の人たちが、海の変化を少しずつ自分のこととして受け止め始めていることに、石橋さんは希望を見ているのだ。
海の環境を立て直すことと、漁師の暮らしを立て直すこと。それらは、城ヶ島ではすでに切り離せない課題になっている。藻場再生も、アマモの苗床づくりも、クレジットの活用も、その先にあるのは、次の世代が漁業を仕事として選べる海を残せるかどうかという問いだ。
「ブルーカーボンのクレジットで得た収益も、今後の活動資金として大切に使っていきたい。そしてそれだけじゃなくて、陸上養殖や観光、教育も含めて、漁師の収入を上げる新しい仕組みも作っていきたい。そうやって海を守ることが、漁業を続けていく力にもなればと思っています」
FISHERY JOURNAL vol.6(2026年夏号)より転載




