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スマート漁業

ドローンの自動給餌が漁村の新名物に?スマート化で目指す、養殖漁業の明るい未来予想図

養殖漁業の普及を推し進めるカギとなるのが、AI・IoTを取り入れたスマート化。中でも、作業効率を向上させ、漁師の負担を軽減する「自動給餌AIドローン」に注目が集まっている。開発者の長崎大学・小林透教授にお話を伺った。

<目次>
1.養殖漁業の生産性を上げる自動給餌システムが登場
2.自動給餌AIドローンの仕組み
3.縦割りではなくトータルでスマート化する仕組みが必要
4.漁業を儲かる産業にするミライの漁村の姿

養殖漁業の生産性を上げる
自動給餌システムが登場

自然漁では魚を獲り、市場に卸せばそこで終わりだが、養殖漁業は稚魚の状態を確認し、生け簀・水槽や設備の管理、エサやりを定期的に行う必要がある。安定した供給が目指せる反面、日常的な労働コストが求められ、さらには昨近の飼料の価格高騰に伴い、収益をあげることはさらに難しくなってきている。

こうした状況を打破するべく期待がかけられているのがAI・IoT機器によるスマート化だ。

2023年、長崎大学情報データ科学部 小林透 教授の研究チームは、魚の満腹状態・空腹状態を自動で判断し、適切な給餌を行うAIドローンの開発に成功した
このシステムは、水中カメラで生け簀のなかの魚を撮影し、魚の活性度合いから満腹状態と空腹状態をAIで判定。そのデータをエサ運搬ドローンと連携することで、給餌量を制御する仕組みだ。開発の背景について小林教授はこう語る。

「魚がどれくらい餌を食べるかは日によって違うにも関わらず、定期的に同量の餌をあげている現状がありました。そうすると、食べ残しが多い日は餌が無駄になり、海洋汚染にも繋がります。また、沖合養殖であれば、漁師さんが直接生け簀まで魚の様子を見に行かないといけない。そこで、AIに置き換えることができれば、これらを解決できるのではないかと思ったのです」。

養殖のランニングコストは一般的に餌代6:運用4とされ、運用のなかには人件費の割合が大きい。AIドローンによって給餌作業を自動化できれば、作業負担は大きく改善され、エサ代の削減にも繋がる。養殖漁業の生産性が飛躍的に向上し、収益も上げやすくなるだろう。

また、小林教授によると、今後は水中カメラを水中ドローンに変え、より正確なデータ収集を進めているそう。

「次のステップはエサの分量を自動調整できるようにすることが目標です。実用化に向けては、ドローン同士の衝突を防ぐ仕組みや生け簀全体にエサを撒布できるようになる必要があるでしょう。現在は実験段階ですが、少しづつ社会へ披露できるものにしていければと思っています」。

自動給餌AIドローンの仕組み

生け簀に設置した水中カメラの映像と、動いているものだけを認識する技術「Optical Flow」を用いて魚の動きを測定。


Optical Flow

漁師の判断をもとに魚の活性度をヒートマップ化し、「ローズダイアグラム」として表すことで、魚の満腹/空腹状態を可視化。AIに学習させることで、魚の空腹度合いを自動判定することができ、その情報をドローンに送信することで、適切な給餌が可能になる。


ローズダイアグラム(左・空腹状態/右・満腹状態)

 

縦割りではなくトータルで
スマート化する仕組みが必要

今回の自動給餌AIドローンは、AI・IoTを活用した完全自動養殖システム「Aqua Colony Platform」の一部に過ぎない。小林教授が目指すのは、養殖漁業の作業全体をスマート化することにある。

「水質を測定できるセンサーや魚の状態をモニタリングできる水中カメラ、自動給餌装置など、スマート機器自体は色々と登場しています。しかし、ピンポイントで縦割りなものが多いのが課題です。『Aqua Colony Platform』では、循環型漁業をコンセプトに掲げ、魚の餌の候補としてミールワームという昆虫飼料の開発を進めています。飼料となる昆虫の育成→AIドローンの運搬→魚の給餌→漁獲した魚を人間が食べる。こうしてトータルで見たときに、どこをAI・IoT技術が担い、人が補うのかを見極めることで、本当の意味でスマートな漁業が確立されると思います」。

さらには、生産過程からマーケット(市場情報や地域の飲食店など)をAI同士で繋ぎ自動化する、メタAIの研究も進めている。情報管理が一元化されることで、人間が介入する仕事がより明確になり、生産性の向上が見込まれるそうだ。

漁業を儲かる産業にする
ミライの漁村の姿

スマート化によって作業の効率化が進めば、養殖漁業の就労者も増え、持続可能な漁業に向けて一歩前進するはずだ。しかし、儲かる産業となるには、もう一歩先を見据える必要があると小林教授は強調する。

「漁師さんがラクになっても、魚が売れなければビジネスになりません。そのため、漁業が儲かる産業になるには、漁業を中心にした地域全体の仕組みづくりが必要になってきます。例えば、自動給餌ドローンが航空機のように編隊を組んで飛行したら、観光客がやってくるかもしれない。また、魚の餌となる虫を育てる施設にエサを運ぶ仕事を、地元の高齢者や若者が宅配サービスの配達員のように受注して働けるシステムが作れれば、雇用と地域との関わりが生まれる。結果、観光地として地域は潤い、若者たちは地元に留まる。一次産業の大変な面だけでなく、カッコよくて面白い部分をどんどん発信していくことが、産業としての発展に繋がっていくと信じています」。

スマート化がもたらす明るい未来予想図は、思った通りに叶えられていくのか。現実になる日は近い。

未来予想図

夜空に煌めく自動給餌ドローン
が観光資源に


AIドローンが自動運転でエサやりに海を飛び交う。まるで航空機のショーのような姿が、新たな観光資源として漁村の名物になる日も。訪れた観光客は、地域で育てられた養殖魚を生育から食までのストーリーとして楽しむことができる。

スマート漁業が
地域に新しい雇用を生み出す


養殖魚のエサとなるミールワームを育てるワームポッドを分散して設立。ミールワームのエサやりは地域の住民が「仕事」として行う。レストランやスーパーと連携して、廃棄予定の食品を利用することで、フードロスの削減にも。
 

取材協力

長崎大学
情報データ科学部 教授

小林 透さん


イラスト:アサミヤカオリ

FISHERY JOURNAL vol.2(2024年夏号)より転載

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