【2026年度】都道府県のスマート漁業、漁業DX独自事業②「関東・甲信越エリア」
2026/07/22
都道府県の2026年度当初予算には水産業におけるデジタル技術の導入やスマート漁業の社会実装に向けた独自の補助事業が数多く盛り込まれている。 地域ごとに展開される水産施策をシリーズで紹介する。 第2回は関東・甲信越エリアでそれぞれの地域特性に応じた水産業のデジタル化支援について解説する。
1.2026年度の全体傾向と デジタル水産施策の方向性
2.茨城県 沿岸漁業の効率化とICT導入による経営基盤強化
3.栃木県 内水面養殖のスマート化による安定生産と省力化推進
4.群馬県 環境データ活用による内水面養殖の効率化と経営安定
5.埼玉県 都市近郊型養殖のICT管理と収益性向上の展開
6.千葉県 スマート水産業推進と持続可能な漁業基盤の確立
7.東京都 島しょ地域の沿岸漁業デジタル化と効率的操業の実現
8.神奈川県 AI定置網システムと海業推進による水産活性化
9.新潟県 日本海側の漁業DX推進とデータ駆動型養殖の展開
10.山梨県 ブランド魚の陸上養殖におけるスマート管理の徹底
11.長野県 信州サーモン養殖のデジタル変革と省力化体制の構築
2026年度の全体傾向と
デジタル水産施策の方向性
2026年度の都道府県当初予算では、深刻化する労働力不足や、地球温暖化に伴う激しい海洋および水面環境の変化に対応するため、水産業のデジタル変革やスマート漁業の導入に向けた予算措置が全国的に目立つ。
関東・甲信越エリアにおいてもこの傾向は顕著であり、海面漁業を抱える都県では漁船の操業効率化や定置網の遠隔監視システムの開発、さらにはデジタル技術を用いた密漁対策などが進められている。
一方、海のない内陸県においても、豊かな水資源を活かした内水面養殖業や栽培漁業の現場において、ICTを活用した水温や水質の自動モニタリング化による省力化や、データ駆動型の生産管理への転換を図る独自事業が数多く盛り込まれた。
地域ごとの水産資源の特性や直面する課題に応じ、先進的なデジタル技術の力で水産業の持続可能性と収益性の向上を同時に達成しようとする自治体の確固たる方針が伺える。
以下に、関東・甲信越エリアの10都県における具体的な振興施策を解説する。
茨城県
沿岸漁業の効率化と
ICT導入による経営基盤強化
水産業のデジタル変革やスマート漁業の導入を支援(画像:©linegold/Shutterstock.com)
茨城県は2026年度当初予算において、農林水産業の持続的な発展と生産性の向上を目指し、水産業のデジタル変革やスマート漁業の導入支援に強い軸足を置いている。深刻化する漁船員の高齢化や担い手不足に対応するため、沿岸漁業における操業の効率化や省力化を強力に推進する予算を個別に措置した。
具体的には、漁業者向けの各種支援施策活用ガイドブックなどを通じて案内される融資枠や補助制度を活用し、海洋観測データを活用した効率的な漁場探索システムの導入や、操業の安全性を高めるデジタル機器の整備を後押ししている。
また、栽培漁業や沿岸養殖業の分野においても、ICTを活用した水温や水質のリアルタイム監視環境の構築を進め、急激な海洋環境の変化によるへい死リスクの低減や計画的な出荷体制の確立を図っている。
意欲ある漁業者が厳しい環境下でも経営の安定化と持続可能性を両立できるよう、行政と関係機関、漁協が一体となったサポート体制を強化し、次世代へ水産業を確実に継承するための強固な基盤づくりを実直に進める方針である。これにより地域全体の活力を維持する。
栃木県
内水面養殖のスマート化による
安定生産と省力化推進
内水面漁業および養殖業の近代化とデジタル化を精力的に推進(画像:© OFFICE TK /Shutterstock.com)
栃木県は2026年度当初予算において、海のない内陸県としての強みを最大限に活かした内水面漁業および養殖業の近代化とデジタル化を精力的に推進している。
地域名産であるヤシオマスなどの養殖生産を環境変動に左右されずに安定させ、限られた人員での効率的な操業を可能にするため、生産者がスマート機械を導入・利用する取り組みを支援する予算を計上した。この取り組みにより、ICTを用いた飼育池の水温や溶存酸素量の自動測定および遠隔監視が可能となり、異常の早期発見と管理作業の劇的な省力化が実現している。
また、限られた水源を有効活用するための先端的陸上養殖モデルの導入調査や実証研究も支援し、環境負荷の低減と高い生産性を両立させる次世代型の養殖体制を整備している。
さらに、内水面漁業全体の振興に向け、水産試験場などと連携したデータ駆動型の生産技術指導を徹底して行うことで、地域の生産者の経営健全化と、新規就業者が円滑に定着できる環境づくりを強力に後押ししている。技術の集約により産地の競争力を高める。
群馬県
環境データ活用による
内水面養殖の効率化と経営安定
デジタル技術を駆使した効率的な生産体制を構築(画像:©walkingcow3039 /Shutterstock.com)
群馬県は2026年度当初予算において、内水面水産業の持続的な発展と地域活性化を図るため、デジタル技術を駆使した効率的な生産体制の構築を進めている。豊かな水資源を活かしたアユやサケ・マス類の養殖業において、高齢化や労働力不足を補うための省力化施策に重点を置いた予算をしっかりと措置した。
具体的には、養殖施設へのスマート管理機器の導入を広く支援し、水温や水質などの飼育環境データを自動で計測・記録するシステムの普及を図っている。これにより、管理者の見回り負担を大幅に軽減するとともに、データに基づく最適な給餌管理や病気対策が可能となり、生産の安定化と生産コストの削減に大きく寄与している。
また、内水面漁業協同組合などと緊密に連携し、川や湖の環境調査にデジタル機器を導入することで、水産資源の適切な動向把握と放流効果の最適化を目指している。現場の重要なニーズに即した技術の社会実装を確実に進め、内水面水産業の経営基盤を強固に支える方針であり、持続可能な産業構造への転換を促す。
埼玉県
都市近郊型養殖のICT管理と
収益性向上の展開
内水面漁業および養殖業の付加価値向上と省力化を目指す(画像:© OFFICE TK /Shutterstock.com)
埼玉県は2026年度当初予算において、都市近郊型という立地を活かした内水面漁業および養殖業の付加価値向上と省力化を目指し、デジタル化を軸とした振興策を展開している。
金魚やホンモロコ、ホンマスなどの独自の特産水産物の生産現場において、就業者不足に対応するための効率的な経営管理システムの導入を支援する予算を計上した。ICTを活用した飼育池の環境モニタリングや、自動給餌機の連動システムの構築を進めることで、見回りや管理に要する作業時間を劇的に削減し、限られた人員でも規模を維持・拡大できる生産体制を構築している。
また、水産試験場による蓄積データ分析に基づいた飼育技術の高度化を支援し、気候変動に伴う夏の極端な高水温期における管理リスクの軽減を図っている。さらに、流通段階における情報発信や効率的な出荷体制の整備など、デジタル技術をサプライチェーン全体に活用することで、地域水産業の収益性向上と安定的な発展を目指す構えであり、都市型モデルを確立する。
千葉県
スマート水産業推進と
持続可能な漁業基盤の確立
漁業者へのスマート技術やデジタル機器の導入を多角的に支援(画像:©rujin/Shutterstock.com)
千葉県は2026年度当初予算において、スマート水産業推進事業として1330万円を計上し、総額3330万円のスマート化推進予算の一部を水産業分野に充てている。この事業では、激しい海洋環境の変化や深刻な労働力不足に対応するため、漁業者へのスマート技術やデジタル機器の導入を多角的に支援する。
具体的には、沿岸漁業における海洋観測データのリアルタイム共有や、効率的な操業を支援するシステムの構築を民間と連携して進めている。
また、海面養殖業の分野においても、ITを活用した水温や水質の遠隔監視システム導入を後押しし、赤潮などの環境変動リスクに対する迅速な対応と被害軽減を可能にする。さらに、2027年度に千葉県で開催される「第46回全国豊かな海づくり大会」に向け、豊かな海と本県の多彩な水産物を全国にPRする予算も確保し、最先端技術の導入と一体となって地域水産業の活性化を牽引する方針である。基盤強化を加速させる。
東京都
島しょ地域の沿岸漁業デジタル化と
効率的操業の実現
スマート漁業技術の社会実装に向けた取り組みを推進(画像:©rujin/Shutterstock.com)
東京都は2026年度当初予算において、島しょ地域や沿岸海域における水産業の持続可能な発展と操業の効率化を目指し、スマート漁業技術の社会実装に向けた取り組みを推進している。広大な海域での効果的な資源管理と、深刻化する担い手不足に対応するため、ICTを活用した最新の漁業振興策を展開する予算を十分に措置した。
具体的には、海洋観測ブイや漁船の航跡データをシームレスに連携させ、漁場探索の効率化や燃油コストの削減に直結する実証調査を支援している。
また、太平洋クロマグロなどの高級魚の電子的かつ効率的な流通管理や伝達体制の整備を進めることで、産地から消費地までの確実なトレーサビリティの確保とブランド価値の向上を図っている。水産試験場などの専門機関と現地の漁業者グループが密に連携し、現場のニーズに応じたデジタル技術の導入調査を重ねることで、東京の水産業の競争力を高め、意欲ある新規就業者が安定して定着できる環境を進める方針である。大消費地への安定供給を担う。
神奈川県
AI定置網システムと
海業推進による水産活性化
魚種や入網量を自動で判別する画期的なシステムの開発と実証を推進(画像:©rujin/Shutterstock.com)
神奈川県は2026年度当初予算において、定置網漁業のスマート化による操業の効率化などを促進するため、漁業活性化促進事業費として2418万7000円を計上している。
この事業では、定置網に魚群探知機や水中カメラなどの遠隔監視装置を設置し、陸上に送信された水中映像などをAIで分析して、魚種や入網量を自動で判別する画期的なシステムの開発と実証を推進する。これにより、出漁の最適なタイミングを正確に把握することが可能となり、操業時間の短縮や燃油コストの大幅な削減、過酷な労働環境の改善を実現する。
また、内水面漁業振興対策費として6011万1000円を盛り込み、河川放流用のアユの稚魚生産や丹沢ヤマメを活用した観光振興に取り組むとともに、海業推進事業費などを通じて、県内の教育機関と連携した海業の担い手育成研修を実施するなど、デジタル技術の活用と多角的な人材育成を両立させた総合的な水産振興に注力している。新しい浜の形を提示する。
新潟県
日本海側の漁業DX推進と
データ駆動型養殖の展開
水産業の構造転換と漁業DXの推進に深く注力(画像:©rujin/Shutterstock.com)
新潟県は2026年度当初予算において、日本海海域の激しい海洋環境の変化や担い手不足に対応するため、水産業の構造転換と漁業DXの推進に深く注力している。新潟県の主要漁業である沿岸および沖合漁業の経営安定化に向け、デジタル技術を活用した効率的な生産体制の構築を広く支援する予算を措置した。
水産研究機関や漁業協同組合と連携し、海水温や海流などの海況データを迅速に収集・分析して漁業者へリアルタイムで共有するシステムの運用を支援している。これにより、広大な漁場における効率的な漁場探索が可能となり、無駄な航行を減らすことで燃油コストの削減と操業時間の短縮を着実に図っている。
また、海面や陸上での養殖業においても、ICTを活用した水温や水質の遠隔監視システムの導入を進めており、環境変動リスクの低減と計画的な生産管理を高度に両立させることで、日本海の豊かな恵みを次世代へつなぐ持続的な水産業の確立を目指している。DXの力で経営体質を強化する。
山梨県
ブランド魚の陸上養殖における
スマート管理の徹底
ブランド魚の安定生産に向けたデジタル技術の導入を精力的に推進(画像:© OFFICE TK /Shutterstock.com)
山梨県は2026年度当初予算において、豊かな湧水や河川水を活用した内水面養殖業の高度化と、ブランド魚の安定生産に向けたデジタル技術の導入を精力的に推進している。本県オリジナルの高級魚である「富士の介」などの陸上養殖の現場において、人手不足に対応した省力化と徹底した品質管理を図るため、スマート水産業施策への支援予算を措置した。
具体的には、ICTを導入した飼育環境の遠隔監視システムや自動給餌機の有効活用を後押しし、水温や溶存酸素量のデータをリアルタイムで把握・管理できる体制を整備している。これにより、夜間や停電時などのリスク管理を大幅に強化するとともに、管理作業の効率化と燃油・電気コストの低減を同時に実現している。
また、国内外の需要拡大を見据え、輸出先国の規制に対応したモニタリング体制の強化や国際的認証の取得支援などにも取り組み、デジタル化による生産の高度化と市場開拓を一体的に進める方針である。内陸養殖の先進化を具現化する。
長野県
信州サーモン養殖のデジタル変革と
省力化体制の構築
スマート養殖技術の社会実装と現場の省力化に深く注力(画像:© OFFICE TK /Shutterstock.com)
長野県は2026年度当初予算において、豊かな自然環境と清らかな水資源を活かした内水面水産業の持続的な発展を目指し、スマート養殖技術の社会実装と現場の省力化に深く注力している。
県独自の高級ブランド魚である「信州サーモン」などの養殖現場において、深刻化する高齢化や労働力不足の課題を解決するため、ICTを活用した効率的な生産管理システムの導入支援を予算にしっかりと盛り込んだ。飼育池の水温や水質を常時監視する遠隔モニタリングシステムの普及を図ることで、管理者の見回り負担を大幅に軽減し、異常発生時の迅速な対応を可能にしている。
また、蓄積されたデータに基づく最適な給餌を行うことで、配合飼料の無駄を徹底して省き、生産コストの削減と魚体の均一な成長を高い水準で両立させている。水産試験場による先進的な技術指導や関係機関との密接な連携体制を強め、技術を活用した内水面水産業の経営基盤強化に努めていく構えである。生産現場の近代化をおし推める。
DATA
取材・文/フィッシャリージャーナル編集部



