注目キーワード

インタビュー・コラム

魚の価値を最大化して「高く売る」。直取引主体のビジネスモデル転換で稼げる漁業へ

日本中の一流料理人がこぞって彼の魚を欲しがっている。その人こそ、愛媛県今治市のカリスマ漁師、藤本純一さんである。かつては誰よりも多く獲ることに喜びを感じていた藤本さんが魚の高付加価値化を目指した理由とは。

メイン画像:「この人とは保育園の頃からずっと一緒!」と語る奥様と並ぶ藤本さん。

優しく丁寧な作業が
魚の価値を最大化する

「自分の魚の良さを理解して、その日に出せる魚を『欲しい!』と言っておいしく料理してくれる人にだけ出荷してるんだよ」と語るのは愛媛県今治市の漁師、藤本純一さん。その理解ある店の中にはミシュランの星付きも珍しくない。一流の料理人に藤本さんが高く評価されている理由こそ、「活け越し」と「神経締め」の技術だ。獲った魚は即出荷せず、漁船を改造した生け簀の中で魚をリラックスさせて、体内に蓄積された疲労物質を抜く。これが「活け越し」だ。ビチビチと暴れる魚をサッと締めると見栄えは良いが、魚の味を損なってしまうそう。そのため生け簀から魚を獲る時も、その後の「神経締め」も、藤本さんは実に優しく丁寧に作業する。しかし、この技術自体は他の漁師でもできるはず。それなのになぜ、藤本さんの魚は高く評価されるのだろうか?


「活け越し」された魚は出荷に向けて「神経締め」される。T字型のフィッシュピックで脳を突き、破壊した後、ワイヤーを通して脊髄を破壊して神経の伝達を止める。最後にハサミでえらを2カ所切断する。

「他に理由があるとしたら目利きかな。俺は漁師の4代目だけど、物心ついた頃からその日に獲れた魚の中から食べたい魚を選ばせてもらえた。人生のほとんどをかけてどんな魚がおいしいのかを学び続けたからね」。

卓越した「活け越し」と「神経締め」、そして40年近く養ってきた「目利き」が、他の追随を許さないおいしい魚を生み出していた。


「活け越し」に使われるのは港に停泊してある漁船。獲れた魚を入れて落ち着かせることで、魚体に蓄積された疲労物質を抜く。



海から魚がいなくなる!
獲り過ぎが資源減少を招く

藤本さんが漁師になったのは18歳。父とともに漁に出て、港に戻ってからも1人で海に出て、「ひたすら獲りまくった」という。「やるからには誰にも負けたくないからね。数年後には、誰にも負けないくらい獲れるようになっていたよ」。

そんな藤本さんだが、数年で疑問を抱くようになった。たくさん獲れても、シケで獲れなくても、収入が大して変わらなかったからだ。また、年を追うごとに、大きい魚を獲りにくくなってきた、とも感じていた。

「自分の魚がどうやって売られているのか知るために市場に通ってみると、たくさん獲れたときは安く、魚が少ないときは高く売られていた。だったら沢山獲っても無意味だし、このまま獲り続けたら魚がいなくなってしまうという危機感もあった。そこで、魚を高く売るしかない、と気付いたんです」。

そのタイミングで転機が到来した。藤本さんの魚を気に入っていた大阪の料理人が仲間を招き、藤本さんの鯛を材料にして鯛しゃぶパーティを開催して大好評となったのだ。そこから彼らとの直取引が始まった。


取引先への魚の梱包作業も自らで行う。午後の便の一部は、路線バスで運ばれて行った。どうしても藤本さんの魚が欲しい取引先の料理店がバス会社と交渉して、路線バスでの輸送を実現したというから驚きだ。

その後は、高品質な魚と藤本さんの真面目な仕事ぶりが評判を呼び、今では顧客リストには300店舗を超える高級飲食店が並ぶまでに。藤本さんは直取引主体のビジネスモデルを構築できたことを、周囲の方々のお陰と謙遜しつつ、漁業の持続可能性について提言してくれた。

「俺は魚が好きで、漁が大好き。好きな仕事で家族が困らない程度には利益を出せる体制を築けた。それでも、今のままみんなが無尽蔵に獲り続ければ魚はいなくなってしまう。本当は漁獲量の規制をすべきなのだろうけど、すぐには難しいよね。だから、まずは高く魚を売る努力をしてほしい。慣例に流されず、水産資源と自身の生活を守るために、量だけではなく、質を高める努力をしてほしいな。今は、ECサイトやふるさと納税など、魚を高く売るためのプラットフォームがある。市場の5倍で売るのは難しくても、2倍や3倍には誰でもできるはず。直取引を始めると、お客さんが何を求めているのかがわかる。あとは、求められる魚を獲ればいい。若い漁師がそこを目指すようになれば、日本の漁業と漁師にも未来があるよ」。


大島は瀬戸内海でも屈指の品質を誇る宮窪沖。入り組んだ海流が筋肉質で美味しい魚を育む。



 

PROFILE

株式会社蛭子丸 代表

藤本純一さん

1982年に愛媛県で4代続く漁師の家庭に生まれる。物心つく頃から魚を見る目を養い、18歳で漁師に。「活け越し」・「神経締め」・「目利き」と誠実な人柄を武器に、高品質な魚を直販するビジネスモデルを構築した。2021年には「ゴ・エ・ミヨ 2021(日本版)」でテロワール賞を受賞した。海外展開に向けて新たなチャレンジも行っている。


文:川島礼二郎
写真:川村公志

FISHERY JOURNAL vol.1(2024年冬号)より転載

関連記事

アクセスランキング

  1. 水産業の可能性を広げる! 東日本大震災で被災した若手漁師×多業種の力
  2. 脱・手書きで生産性向上へ! タッチレス帳票システムとはじめるDX入門
  3. 好気環境で簡単・安全に窒素除去できる、閉鎖循環陸上養殖システムを開発...
  4. アンジュルム・川村文乃「魚をさばくと気持ちがスッキリします」味だけじゃない魚の魅力...
  5. 漁港を起点に漁村の活気を取り戻す いま取り組みたい 『海業』とは?
  6. 【新しい漁業の在り方】女性漁師が思い描く、漁業の明るい未来とは?
  7. 創業100年以上の老舗水産商社・ニチモウが挑む、環境保護への取り組みとは?...
  8. 魚の価値を最大化して「高く売る」。直取引主体のビジネスモデル転換で稼げる漁業へ...
  9. フリーマガジン「フィッシャリージャーナル」2/21(水)創刊!
  10. 必要な時にサブスクで使える! 養殖場での保守管理を楽にする、水質データ観測サービス...

フリーマガジン

「FISHERY JOURNAL」

vol.01 / ¥0
2024年2月21日発行

お詫びと訂正

 

» Special thanks! 支援者さま一覧はこちら