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海水温の上昇で変わる主力魚種、ブリで地域経済の活性化! 漁協×企業が挑む高付加価値漁業。

収益の柱であったサケの不漁に代わり豊漁となったブリの出荷先開拓に悩まされていた北海道・白糠町。立ち上がったのは、地域創生に取り組むイミューの黒田康平さんだ。新たな水産資源としてブリを活用するべく、白糠漁業協同組合とタッグで取り組む「高付加価値化」について伺った。

<目次>
1.ブランド魚「極寒ぶり®」で地域経済の活性化へ
2.白糠町に学ぶ高付加価値漁業を実現するSTEP

 

ブランド魚「極寒ぶり®」で
地域経済の活性化へ

体側に黄色い帯が入り、出世魚としても知られるブリ。本来は南方系の魚だが、海水温の上昇などで回遊ルートが変わり、北海道ではここ数年ほど全国有数の水揚げ量になっている。本州では高級魚として取引されているが、北海道の食卓には浸透しておらず、消費量が伸び悩んでいる。そんな道産ブリを浜の救世主として活用しようという取り組みが道東の白糠町で始まった。

地域資源のブランド化を手がけるイミューは白糠漁業協同組合と手を組み、天然ブリの鮮度が長く保つように加工する「鮮度保持水槽施設」を開設した

昨年は飼育期間の長短で鮮度と味がどのように変化するかを確かめる実証実験を実施。黒田康平社長は「鮮度とうまみの基礎的なデータをしっかりと確認できた」と手応えを感じている。

白糠漁港で水揚げされる定置網漁のブリは2020年で約1トン獲れる程度だったが、22年は17トン、23年は一気に100トン超へと急増。今後も漁獲量が増えることが予想され、出荷先開拓は待ったなしの状況だったが、北海道の食文化に根づいていないブリは、浜値も振るわない状況が続いていた。

そこで目をつけたのが全国の消費者を対象としたふるさと納税の返礼品だ。イミューは23年9月に水産加工場の新設に踏み切り、船上で血抜き処理した重さ7kg以上のブリを厳選して販売を始めた。

そして24年9月、さらなる高付加価値を実現するために開設したのが「鮮度保持水槽施設」であった。水揚げしたブリを海水よりも低濃度の塩水をためた水槽で餌を与えずに飼育し、低活性化させることで魚体にかかるストレスを軽減させる

また、胃が空になることで臭みもなくなる。その後、活締め・血抜き・神経締めをすることで身の透明感や美しさも増す。今後は、実証実験により、鮮度保持期間や、熟成度による味の変化について確認を行うという。

「低活性活かし込み技術™」(技術提供/(株)リバーサー)を応用し、日本初の活性コントロールによる高鮮度化を実現する。

黒田社長は「鮮度保持加工により、白糠のブリを冷凍することなく生の状態で全国に届けて単価を引き上げたい」と強調する。白糠漁協でブリの浜値は現在1kgあたり300円を下回るが、イミューでは7kg以上のブリを1kg1200円で仕入れ、ブランド化による付加価値をつけて取引額3000円以上での販売を目標とする。

今後は、船上で活締めされた「極寒ぶり®」と、鮮度保持水槽施設で加工処理し、料理人が身の熟成度を選べる「極寒ぶり®選熟」の二本立てで高付加価値漁業の実現を目指す。

「極寒ぶり®」の名称は、北海道白糠漁協で水揚げされ、船上活締め(放血)で1匹ずつ処理した、魚体が7kgを超えるブリのみに与えられる。

企業との協働の実現は現場で働く漁師の意識向上にもつながっている

「魚を獲ることにかけてはプロだが、販売の面では素人だった」と話すのは、漁師の木村太朗さん。木村さんは白糠産ブリの価値向上のため、手間と時間のかかる船上の活締めを行っている。ブランド化へ向けた事業の立ち上げ当初から現場の声を黒田社長に届けてきた。

「鮮度の良いおいしいブリを本州の消費者へ届けたい。そして収入も増えれば言うことなし」と木村さんは笑う。また、地場特産品の開発を通し交流関係が広がったこともメリットとして挙げる。「業界の人たちと知り合うことができた。自分が獲った魚が、どれほど消費者に期待され、どんな思いで食べられているのか、それを聞くことができたのは貴重な経験でした」と振り返る。

ふるさと納税の返礼品として出品している「極寒ぶり®漬け丼」。調理不要で手軽に極寒ぶり®のおいしさを味わうことができる。

現在は、地域経済のさらなる活性化へ向け、ブリ以外にマツカワガレイなど他の魚種にも高付加価値漁業が展開できないかを模索中だ。

「秋サケの漁獲量が減ってブリが増えたように、主力魚種の変化に迅速に、そして柔軟に対応できるかがカギ」と黒田社長は語る。鮮度保持水槽施設を軸とし、ブリで培ったブランド化への道のりを他魚種にも応用することで、一過性ではなく長期的にもうかる仕組みを築くことが重要ととらえている

白糠町に学ぶ
高付加価値漁業を実現するSTEP

01 常識を疑い可能性を探る

白糠町ではブリは地元で食べる習慣がなく浜値も他県の高級ブリより15分の1ほどに安い「厄介者」だった。しかし、首都圏の料理人に提供したところ、魚体の品質の高さが明らかに。旧来の常識から抜け出したことで、水産資源としての新たな可能性を見つけることができたのだ


02 付加価値をつけて差別化を図る
魚体の品質は評価が高いものの処理の方法には改善を求める声があった白糠町のブリ。そこで導入に向けて実証を実施しているのが鮮度保持水槽施設。最新技術を取り入れ、鮮度の長期保持と品質向上を目指す。通常より手間暇がかかるが、まねができない付加価値をつけることができる。


03 地域ブランドの強みを生かす
高品質でも買ってもらえなければ意味がない。そこで「極寒ぶり®」と命名しブランド化。地域ブランドの強みを生かせる「ふるさと納税」に注目し、厄介者からブランドに至るまでの奮闘をストーリーとして伝え、全国にリピーターとなるコアファンを獲得している。

PROFILE

株式会社イミュー 代表

黒田康平さん

兵庫県出身。日本酒のメキシコへの卸会社の役員を経て、ITベンチャーに入社。年商0円→70億円超のD2C事業経営や年商200億円企業の通販コンサルティングを実践後、株式会社イミューを設立。「地域に根を張り、日本を興す。」をコンセプトに、地域資源のブランド化による産業創出を行う。
公式note:note.com/immue_inc


白糠漁業協同組合

木村太朗さん

祖父、父と続いてきた木村漁業部で代表取締役社長を務める。15年ほど前から、当時はまだ珍しかった「活締め」を行い、「神経抜き」の技を磨く。現在は、白糠で獲れる魚の価値を高めるべく数々のチャレンジを行い、その魅力を発信している。


文/写真:須貝拓也

FISHERY JOURNAL vol.3(2025年冬号)より転載

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