【無料アプリ3選】漁船事故を防ぐのは経験ではなく情報!船上で役立つ情報ツールとは
2025/03/24

広大で不確定要素の多い海に挑む漁師たちは、危険と隣り合わせの日々を送っている。突如訪れる不測の事態を避けるために重要なのが「情報」だ。今回は、漁師たちの現場で活躍する3つの無料アプリを紹介する。
1.海の向こうには何がある?
2.変わり続けるモノと変わらざるモノ
3.不安を取り除くために最も欲しいものは?
4.漁師の現場で使われる無料アプリ3選
海の向こうには何がある?
「この先にはどんな素晴らしい世界があるんだろう?」
「もしかして宝の山が眠っているかもしれない!」
目の前に広がる海を見て、そう思ったことはないだろうか? 人は、自分の知らない世界を見ると冒険心をくすぐられるものである。万に1つもない夢物語でも、10万に1つはあるかもしれない。まだ見ぬ世界だからこそ、可能性は無限である。そんな夢物語が、飛行機を生み、インターネットを生み、月へも到達したのである。
とはいえ、その夢物語に本気で踏み出そうとする人はほとんどいない。大概は、「危険な目に合ったらどうしよう」や「何かを失ってしまうかもしれない」といったリスクばかりが頭をよぎってしまう。結果、希望よりも不安が勝ってしまうものだ。それは先の偉人たちも同様だ。
ただそれでも踏み込められたのは、その1つ1つの不安要素をクリアにして、よりリスクが少ないように心がけてきたからである。そうして、新たな1歩を進めることができたのである。
変わり続けるモノと
変わらざるモノ
先が見えない世界で何千年も前から果敢に挑んできた職業がある。それが漁師だ。
海は、鏡のように凪いでいる時もあれば、10メートルの高波になる時もある。海が誕生してから40億年。24時間365日、絶え間なく変化し続けてきたのが海である。同じ波は2度とこないのである。改めて考えてみると、漁師という職業は自然と対峙して糧を得る、人類に残された唯一の職業と言っても過言ではないだろう。
そんな変わり続ける海で変わらないモノがある。それは「海は危険である」という事実だ。海ではどんなトラブルがあろうとも救急車は駆けつけくれないし、助けを呼ぼうにも携帯の電波でさえ届かないのである。毎年何隻もの船の事故が後を絶たない。減少傾向とはいえ、2023年にはわかっているだけでも1798件もある。
(海上保安庁 海難の現況と対策2023)
特に漁船で一番多い事故といえば衝突事故。死者・行方不明に直結する重大な事故だ。その最大の原因は「見張り不十分」である。いたるところに監視カメラがあるような時代にそんなこと起きるわけがないと思うかもしれない。ましてや何の障害物もない海である。
しかし、本当の海はそんなに簡単なものではない。電波自体が届くわけでもないし、陸上のように道路が整備されているわけでもない。障害物がどこからやってくるかわからないし、岩陰や波の谷間で見えていないだけかもしれない。突風を呼ぶ雨雲。レーダーには反応しない岩礁。漂う廃漁網がプロペラに絡まれば動かなくなるかもしれないのである。
そんな数えればきりがない不安要素を揺れる船の上で360度、絶え間なく監視し続けなくてはならないのである。結局、船の安全は人間の目と判断力に頼っているのが現状だ。
出典:海上保安庁 海難の現況と対策2023(2)漁船の事故防止対策
不安を取り除くために
最も欲しいものは?
では、どうすれば事故の不安を減らせるのであろうか。「見張り不十分」にしろ2番目に多い原因の「操船不適切」にしろ、本当に必要なのは、監視技術や操船スキルではない。行き着くところは「情報」なのである。
衝突するようなものが近づいているという情報。天候が急変するという情報。エンジンが止まってしまうという情報。そんな情報を手に入れることができれば不安要素は減るのである。いくら勘と経験がものを言う漁師の世界でも、天気予報を見たり、仲間の情報を聞いたりと知らず知らずに情報を収集しているのである。
さらに、最近では情報の取り方も進化してきた。衛星を使った船の動態監視や気象海象を計算した適正航路、遠隔でもエンジンの調不調を監視できるサービスなど、ありとあらゆるサービスが続々とリリースされている。もちろん高額なものもあるが無料で使える優秀なサービスもある。そんな数あるアプリの中で、よく漁師や漁協職員が使っているアプリを3つ紹介する。
漁師の現場で使われる
無料アプリ3選
1. Windy
数ある天気アプリの中でも海関連の人に人気のアプリ。漁師ばかりではなく、漁協職員や商船船員、釣り人、サーファーなど数多くの人が利用している。最大の特徴は複雑な海の要素を一目でわかるようにしたトップ画面のデザイン。
偏に海の情報といっても、天気や降水量ばかりではなく、風の向きや風速、潮の流れ、波の大きさ、海水温に至るまで知りたい情報は山とある。1個1個調べてしまうと面倒になるし、かといって一遍に見てしまうと数字ばかりで何が何だかわからない状況になってしまう。そんな悩みを解決してくれるアプリがWindyだ。
余計な数字や文字は極力少なく、日本全国の漁師の中で愛用されているアプリ。一度使ってみたら手放せなくなる。
2. 海洋状況表示システム(愛称:海しる)
海上保安庁が管理運営している日本最大の総合海洋データプラットフォームである。気象海象はもちろん地形や港の区域、灯台の位置から事故発生地点、津波の情報、ウミガメの産卵場所に至るまで、海のあらゆるデータが揃っているプラットフォームである。
1つ1つのデータを同じ地図にレイヤー形式で貼り付けることができるので、自分なりに知りたい情報のカスタマイズができるのも最大の特徴だ。漁師はもちろん海洋研究者や海上保安庁といった海のプロも利用しており、津波情報なども全国の験潮所(潮の干満を計測する設備)の情報が直接入ってくるため報道や救助する立場の人がチェックしているほどの精度である。
3. LINE
日本人の92.5%が利用しているLINE。言わずもがなのメッセージ系SNSだ。このLINEのビジネス使用、プライベートの利用頻度が多く、意外と盲点になっている。LINEのグループにすれば一斉に情報も与えられるし、個人としても対応も可能だ。とくに使えるのが漁協と組合員の船との連絡である。
もちろん海上ではVHFの無線があるが、基本的にはあまり使わない漁師も多く、電波を切っていることさえある。たとえVHFを使っていたとしても聞き流し状態で、話すにしろリアルタイムの魚の情報をやり取りしたいときに限っていたりもする。でも水揚げの状況や魚群の情報、活き〆用の氷の量から燃料の価格の変動など、漁協職員からすれば漁師に伝えたいちょっとした情報はたくさんある。
そんな時に活用するのがこのLINEである。電波が通りにくい海でも好きなタイミングで読むことができ、LINE公式アカウントを活用すればさらに燃料予約や水揚げ報告も楽になる。最近増えている漁協の新しい情報共有ツールだ。
その他にも様々サービスが次から次へと生まれてきている。知らない世界に触れるのは希望よりも不安が勝ってしまうものもだが、そこには欲しい情報があるかもしれない。そんな新しいものに触れる不安なんて、沖に出ることに比べれば、些細なものだ。そして「なんだ、もっと早く知りたかったよ」なんて言うのが関の山だ。何はともあれ、まずは最初の1歩。先の偉人とまではいかなくとも、ちょっと知らない世界をのぞくことで、大漁という宝が手に入るかもしれない。
bon voyage(良い航海を)
教えてくれた人
海のイドバタ会議総座長
守雅彦さん
慶應義塾大学卒。造船業、海事専門商社を歴任。海の地方創生アドバイザーとして独立。
漁業、海運業、海洋環境など様々な業界に精通。「海のイドバタ会議」名義で、海に関わる情報発信を行う。全国30地区の海業に関わる新規事業に携わる。
取材協力/第三管区海上保安本部