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【Jブルークレジット認証事例】海を再生し、仕組みで支える「五島モデル」の現在地

磯焼けが進み、藻場の消失が漁業基盤を揺るがす長崎県五島市。福江島では、海域ごとに異なる対策を組み合わせる「五島モデル」を展開。その成果は累計30.6トンのJブルークレジット認証に結実し、海を守る活動を次につなぐ仕組みづくりへと広がっている。

メイン画像:本格的な対策のおかげで、対策海域では藻場の再生が進んできた

<目次>
1.地域ごとに対策を変える 藻場再生を実践
2.環境価値を見える化しJブルークレジット認証へ
3.海の課題を共有し、地域で取り組んでいく

 

海域ごとに対策を変える
藻場再生を実践

仕切り網で保護された海域。藻場再生の範囲を空から見る

美しい海と風土に惹かれ、観光客も数多く訪れる長崎県五島市。九州本土の西方に連なる五島列島の中核をなす福江島などから成る五島市では、海と暮らし、漁業が密接に結びついている。浜辺から海を望むと、藻場が戻った場所と、失われたままの場所の差は、目で見てわかるほどだ。植食性魚類の侵入を防ぐために仕切り網を張った海域ではヒジキやワカメが揺れ、その外側には海藻の乏しい磯が広がる。五島市産業振興部水産課水産振興班の前田奨悟さんは、「対策をしていない場所は、もうほとんど藻場が残っていないような状況。その差は、天国と地獄のようです」と語る。

釣りが好きで、五島の海に惹かれて移住したという前田奨悟さん。「この海を守りたい」と意気込む

磯焼けの背景にあるのは、水温上昇と、それに伴う生態系の変化だ。イスズミやアイゴ、ブダイといった植食性魚類が海藻を食べる量が海藻の成長量を上回る状態が続き、そうやって海藻が減ることで、それを餌場や住処にしていたアワビやサザエ、イセエビなどの磯根資源もまた細っていく。藻場の衰退は、景観の問題にとどまらず、漁業の基盤そのものを揺るがす問題として五島の海にのしかかってきた。

こうした状況に対し、五島市では2016年ごろから本格的な磯焼け対策を進めてきた。ただし、その方法は一つではない。福江島の中でも、外海に面した崎山地区では、イスズミやアイゴ、ブダイなど植食性魚類の侵入を抑えるために仕切り網を設置し、その内側でヒジキやワカメの再生を図ってきた。崎山地区の仕切り網は約400メートル規模に及び、台風時には回収し、破れれば補修が必要になる。そのため網は30メートル単位で扱えるようにしている。

海底を埋め尽くすほどに激増したガンガゼの群れ。海藻を食べ尽くしてしまい、磯焼けの一因となる

一方、湾内の玉之浦地区では、磯焼けの主因となるガンガゼの駆除を続け、アカモクやマメタワラの回復につなげている。さらに、海藻の種苗を地区間で融通し、人手が足りない場所には約60人規模の市内有志でつくる「磯焼けバスターズ」が応援に入った。「磯焼けバスターズ」は、地区を超えて技術や労力を回していく役割も担っているという。

「五島では外海と湾内では効く手が違いますし、地区によって担い手の状況も異なる。だからこそ、海域の条件に応じて手法を組み合わせ、地区を超えて人も資源も回していく必要がありました。そうした柔軟さこそが、五島市が育ててきた『五島モデル』の特徴といえるかと思います」

環境価値を見える化し
Jブルークレジット認証へ

もっとも、藻場再生は、成果が見えてもそのまま収入になる事業ではない。網の設置にも、ガンガゼの駆除にも、モニタリングにも人手と費用がかかる一方で、藻場が戻ったこと自体はすぐ売上には結びつかない。行政側としても、「続けるための財源をどう確保するか」が大きな課題だった。そこで五島市が考えたのが、再生した藻場の価値を環境価値として見える形にし、保全の財源へつなげることだった。

そこで五島市では、2021年10月に設立した「五島市ブルーカーボン促進協議会」が中心となり、ブルークレジット化を模索。当初は市独自のクレジット認証制度も構想したが、実際に制度を動かす段階では、認証の客観性や対外的な信頼性の確保が大きな課題となった。そこで最終的に、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が運営するJブルークレジットの認証を目指した。

そうして認証につながったのが、累計30.6トンのJブルークレジットである。対象となったのは、玉之浦湾の2020年春・2021年春、水ノ浦湾の2020年春・2021年春、久賀湾の2022年春に再生した藻場に由来する吸収量だ。ここで五島市が重視したのは、単に藻場面積を当てはめるのではなく、海藻の高さや密度まで現場で実測し、そのデータを積み上げて申請することだった。実際にダイバーが現地を潜って計測を重ね、精緻なデータ取得を積み重ねたという。

仕切り網の内側で再生したヒジキ。海の回復を映す

なお、ヒジキが1990年代後半に全滅した崎山地区では、対策を続けた結果、2017年には収穫再開まで戻ったそうだ。こうした現場での回復を、第三者に説明できる価値へと置き換えていくことも、認証の大きな意味だったという。

Jブルークレジットの公売では、0.1トン当たり税込1万1000円、最低1.0トン以上、0.1トン単位で購入申込みを受け付けた。購入希望者がJBEに意向表明を行い、所定の申込書を提出したうえで、JBEが申込内容と適格性を確認し、購入者と数量を決定する流れだ。こうして五島市のJブルークレジットは、単なるCO2吸収量ではなく、藻場再生の努力を価値化したものとして販売につながった。

「購入してくださったのは、単にカーボン・オフセットの手段を探しているというだけでなく、五島の海の再生や地域の取り組みに共感してくださる事業者さんです。最初の販売分については売り切ることができましたが、次の販売をどう広げていくかは、いままさに模索しているところです。価格だけを見ると他のクレジットと比べられることもありますが、藻場を再生し、その活動を地域で続けていくための仕組みだという意味まで含めて理解していただけるよう、今後はそうした価値をしっかり伝えながら販路を広げていきたいと考えています」

海の課題を共有し、
地域で取り組んでいく

こうした仕組みを下支えしているのが、五島市ブルーカーボン促進協議会の体制だ。構成員には、水産研究・教育機構、JBE、三つの漁協、市内漁業者グループ、五島市が名を連ね、磯焼け対策やブルーカーボンを活用した環境保全を推進する一般社団法人磯根研究所も主要な担い手として位置づけられている。研究、制度設計、現場作業、地域経済との接続を一つの枠組みで進めているのが、この協議会の特徴だ。行政側も水産課だけでなく、政策企画や再生可能エネルギー分野を含めて関わっており、藻場再生を単独の水産施策にとどめず、脱炭素政策や地域振興と重ね合わせて進めてきた。

捕獲されたガンガゼ。近年では食用活用や新たな販路開拓に挑戦する漁業者もいるという

「植食魚対策でも、イスズミなどの食害魚を1キロ100円で買い取り、魚粉に加工しています。また、食害魚をペットフードや学校給食にもつなげる取り組みも行われています。駆除して終わりではなく、資源として活かしていく。そうやって、海の中で起きている問題を、資金調達や体制づくりをはじめ、地域の中で回る仕組みに変えていくことが大事なんだと思います」

海の中の課題を、みんなで共有し、地域で守る仕組みへ。それが、「五島モデル」の目指すところだ。


取材・文/曽田夕紀子

FISHERY JOURNAL vol.6(2026年夏号)より転載

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