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【インタビュー】海の蘇生への挑戦。“ブルーオーシャン・ドーム”に込めた想いとは

海洋保全と行動喚起を目的に誕生した2025年大阪・関西万博のパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」。そこには「海の蘇生」への願いも込められている。出展・運営を担当するゼリ・ジャパン理事長、サラヤ株式会社代表取締役社長の更家悠介さんに伺った。

<目次>
1.洗剤から始まった「環境」との対話
2.海洋保全を目指すビジネスからのアプローチ
3.技術革新と地方創生で描く漁業の未来

 

洗剤から始まった
「環境」との対話

サラヤの歴史は、手洗い石けん液から始まった。戦後間もない日本で誰もが平等に感染症の予防ができる、日本初の薬用石けん液を開発。その後、高度経済成長の影で深刻化した石油系合成洗剤による水質汚染に対応するため、1971年にヤシの油を原料とする植物系洗剤の先駆けとなる「ヤシノミ洗剤」を開発し、販売した。

「当時は石油系洗剤の排水で河川が泡立ち、魚が大量死する事例が頻発していました。だからこそ、環境に負荷をかけない製品を社会に提案する必要があったんです」と更家社長は振り返る。植物系洗剤は、衛生だけでなく、環境という社会的な問題を考える出発点となった。

サラヤはその後、自然派甘味料「ラカント」や、予防医療に着目した商品の展開など、健康分野でも事業を広げていく。

2004年からは、マレーシア・ボルネオ島の森林や生物多様性を守る活動をスタート。売上の1%を現地に還元する支援は20年に及ぶ。「一企業ができることは限りがあるけれど、できる範囲で続けていることが大きい。それができるのはお客様が支持してくれているおかげ」と、消費者とともに歩み、プロジェクトを育んできた。

海洋保全を目指す
ビジネスからのアプローチ

森林保全の活動はやがて、海へとつながっていく。

2017年には、スイスの環境保護団体「レース・フォー・ウォーター財団」による海洋プラスチック汚染の啓発プロジェクトに協力。2019年のG20大阪サミットで掲げられた「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」に共感し、地元で開催される大阪・関西万博2025への出展を決意した。

こうして誕生した、海洋保全と行動喚起を目的とするパビリオン「ブルーオーシャン・ドーム」は、サラヤが支援するNPO法人ゼリ・ジャパンが出展・運営を担当し、国内外の多様な団体や地域が連携。

長崎県・対馬での漂着ゴミ問題への取り組みをはじめ、北海道昆布の再生など、幅広いテーマで連日イベントや講演、シンポジウムなどが開催され、海の現状を学び考える場として機能している。

大量の海ごみが流れ着く九州最北端の島・対馬で、プラスチックごみの全量回収を目指す取り組み。地元と連携して資源化・エネルギー化のプロセスを確立し、産業育成や脱石油、サーキュラーエコノミー(循環経済)化を目標に掲げている。

ドーム内の巨大球体スクリーンや展示では、世界的に深刻化する海洋プラスチックゴミ問題も取り扱っている。現実に目を向けつつ、更家社長はプラスチックそのものを否定せず、「容器に使う以上、きっちり回収・リサイクルすることが重要。責任の押しつけではなく、ビジネスとして再設計することが大切」と捉えている。

海の再生は「環境保護と地方創生を結ぶ概念」とも位置づける。地場の水産物、観光、漁業、グルメなどを融合させることで、「文化や景観を重視した事業は、地域に根ざし、外貨を稼ぎ、誇りも育てる」。海のまちの魅力を引き出し、持続可能なまちづくりへとつなげようという構想だ。

技術革新と地方創生で
描く漁業の未来

サラヤは漁業に直結する事業にも力を入れている。例えば、製造・販売する急速液体凍結機「ラピッドフリーザー」真空脱気包装機「シュットマン」は、地方の漁港でも一次加工を可能にし、販路拡大やフードロス削減に寄与している。

青森県の下北半島での加工技術導入など、「バイヤーが来にくい地域でも、高品質な加工品を遠方に届けられる。漁業の付加価値向上につながる」と、技術力で流通の可能性を広げることに手応えを感じている。

製造・販売する急速液体凍結機「ラピッドフリーザー」(左)、真空脱気包装機「シュットマン」(右)などを活用し、品質保持と衛生管理の両立によって、水産現場の課題解決、事業支援に尽力。食品産業の活性化による地域産業との連携と共創を追求している。

海外での活動では、泡で魚を囲い必要な魚だけを選んで獲る「バブルフィッシング」の導入をモーリタニアで計画中。ナイロン網を使わず、生態系への影響を最小限に抑えた漁法として注目されている。

今の漁業は、獲った者勝ちになってしまっている。だからこそ科学的な資源管理が必要で、日本は世界と比べると遅れている。養殖や一次加工を強化し、持続可能な形に変えていかねば」と指摘する。

大西洋に面した西アフリカ・モーリタニアで、地元住民らと協働し、ビジネスを通じた持続可能な漁業(ブルーフィッシャリー)を追求。網を使わず泡で魚を包む「バブルフィッシング」、藻の育成によるブルーカーボンの吸収事業などを目指している。

同時に、漁業を支える環境にも目を向け、「磯焼けで魚のすみかが失われており、藻場の再生は急務。藻場を作ることで海の生き物が戻れば、商業的価値も生まれる」と強調。自然回復と漁業再興、どちらの重要性も意識する。

また、衛生管理が要となる寿司ネタの海外輸出や高付加価値水産物の展開においては、創業時から培ってきた衛生技術を応用し、食の安心・安全を支えている。

「漁業や農業は、地域の文化や景観と深く結びついた産業。拡大よりもクオリティのある満足を求める時代でもある。観光や食と組み合わせながら、地元にしっかりと経済を残す仕組みを丁寧に育てていく必要がある」。

社会貢献とビジネスを両立させてきたからこそ、更家社長の言葉からは地域とともに歩むビジョンが伝わってくる。「循環」「海洋」「叡智」の3つのドームからなるブルーオーシャン・ドームは、今秋の万博終了後、モルディブのリゾート地へ移設される予定だ。

サラヤが創業から貫いてきた理念は、森から海へとつながり、産業と暮らし、そして自然との調和の中に、持続可能な未来を描こうとしている。

ブルーオーシャン・ドームでは楽しみながら「海の保全」を
学べる企画が盛りだくさん!

(左)巨大半球体スクリーンが映し出す水の惑星。海の中からヒトの営みに問いかける。
(右)建築家の坂茂氏による竹、炭素繊維強化プラスチック、紙管を構造材にした3つのドームで構成。

住所:〒554-0000 大阪府大阪市此花区夢洲中1丁目5 大阪万博会場内西ゲートゾーン
開催時間:9時20分~21時 ※予約制
開催期間:2025年10月13日(月)まで

PROFILE

ゼリ・ジャパン 理事長
サラヤ株式会社 代表取締役社長

更家悠介さん

1951年三重県生まれ。大阪大学工学部卒業、米カルフォルニア大学バークレー校工学部衛生工学科修士課程修了。1976年サラヤ株式会社に入社し、1988年より同社代表取締役社長。特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン理事長なども務める。

問い合わせ

サラヤ株式会社


文:金山成美
写真:道向大地

FISHERY JOURNAL vol.4(2025年夏号)より転載

Sponsored by サラヤ株式会社

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