【インタビュー】魚食文化が直面する課題とは? 漁業を目指す若者へ
2024/03/15
業界を支える人物たちが、自身の経営哲学や課題解決への視点、これからの漁業の未来を綴る本連載。第1回は、水産業に関わる600弱の団体や企業で構成される大日本水産会会長の枝元 真徹氏より、魚食文化が直面する課題認識と、漁業を目指す若者に向けたメッセージをいただいた。
団体をつなぐハブとなり、
オール水産で複合的な課題に立ち向かう
世界を見渡しても稀な、多種多様な魚食文化を持つのが日本という国です。魚はいわば海の資源であり、これをきちんと管理し、適切に獲って、未来に文化を伝えていかなくてはなりません。そのためには漁業をめぐる現状と課題に目を向ける必要があります。
大きな課題としては、国内の消費が減少していることが挙げられます。魚の消費も、日本の人口そのものも減っており、これが今後の漁業経済に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。一方、世界全体でみると人口は増えており、魚の消費も増えているので、海外の需要を見据えた水産品の輸出事業を推進していくことを重要視しています。大日本水産会でも、輸出の専門的なサポートや、シーフードショーでの輸出コーナーの設置などでバックアップ体制を整えています。日本を訪れるインバウンド観光客に魚食文化の魅力を伝えていくことも肝心です。
また、人口が減れば、漁師はもちろん、港や市場、水産加工など、魚を食卓に届けるために働く人手も減っていきます。そこで若い人たちに向けて、漁業を仕事にすることの魅力や労働状況をきちんと伝えるために、水産高校や海洋高校に漁業関係の企業と一緒に訪ね、双方が対話できる機会を設けて、就労の間口を広げる活動を行っています。
人に頼らない「水産のスマート化」で
様々な分野の人たちが漁業に関わる
今後は、人に頼らない「水産のスマート化」も実現していくでしょう。その意味で漁業は、理学、工学、IT分野の人材が活躍できる場でもあるのです。これまで以上に様々な分野の人たちが漁業に関わることでの維持・発展が期待できます。また、昨今は海水の温度が上昇し、地域で獲れる魚が急速に変化しています。このような気候変動や温暖化の課題に対応するには、そうした分野のサポートが欠かせません。漁業者もブルーカーボンに取り組んだり、漁具や生産に使う道具をサスティナブルな素材そのものに変えたりすることで、地球規模の責任に向き合っています。
各事業者は、それぞれが様々な方法で大小の課題に取り組んでいるものの、その中にはひとつの分野では解決できないものも出てくるでしょう。そこで、漁業・水産の川上から川下まで600弱の団体が加盟している大日本水産会のネットワークによって、解決方法をマッチングさせる。あるいは、よき取り組みを日本中に広げていく。水産エコラベル「MEL認証」の普及もそのひとつです。我々の裾野の広さをそんなふうに活かし、漁業や水産業のサポートをしていきたいと考えています。
世界に誇る文化であり、経済的な強みである魚食文化を維持していくために、漁業の輪を拡大させるのが我々の使命。ホームページや雑誌『水産界』では、サポート事例や、若い方たちのチャレンジを取り上げています。ぜひそれらを参考にしていただきつつ、一緒に歩んでいきましょう。
大日本水産会が掲げた
令和5年度事業計画の柱
1. 水産関係者の安定した経営の維持確保
漁業共済や積立ぷらすの拡充強化、漁業セーフティネット構築事業の維持・基金の積み増しなど、引き続き事業の維持・継続等を図る。
2. 供給面での構造改革
水産業を支える重要な要素「人・船・資源」がそれぞれ課題を抱えている。構造改革により供給体制の整備を図る。
3. 水産物需要の回復
コロナ禍において販売機会が減少した水産関係者へ販路回復の機会の提供、水産物の消費拡大を進める。また、JETROとの連携で水産物の輸出促進を図るほか、HACCPの普及に努め、水産物の輸出拡大に繋げる。
PROFILE
一般社団法人大日本水産会 会長
枝元 真徹氏
昭和36年3月9日生まれ、鹿児島県出身。東京大学法学部卒業。59年農林水産省入省、平成28年生産局長、令和元年大臣官房長、令和2年8月農林水産事務次官。令和5年6月より現職。
FISHERY JOURNAL vol.1(2024年冬号)より転載